共同開発した業務効率化システムでHD企業の多様な事業展開をサポート
【葬儀DX対談】戸波 隼 (株)穴太ホールディングス DX推進部×田澤俊輔 (株)穴太ホールディングス DX推進部×白石和也LDT (株)代表取締役CEO
※この記事は月刊フューネラルビジネス2024年12月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。
今回はLDT・白石社長が千葉県木更津市を本拠とする㈱穴太ホールディングスの戸波隼氏、田澤俊輔氏と鼎談。
同ホールディングスにおける、スマート葬儀の導入経緯や人材戦略、今後の展開などについて伺った。
葬儀社をベースとする派生ビジネスで多様性あふれる事業展開
白石 御社の創業から現在までをお聞きできますか。
戸波 穴太(あのう)ホールディングスは、葬儀社である十全社をベースにビジネスを派生させてきたグループで、HD化したのは2022年です。
十全社は私の父である現会長(戸波亮氏)の祖母が1986年に設立しました。
葬祭業には仕出しや生花などさまざまな業務があり、以前はすべて外注していました。
会長はそのコストを何とかできないかと、まずは生花と仕出し部門から内製化、そして葬儀ギフトとしてお米に目を付け、その生産のために北海道で農地を取得。
次に精米販売も手がけようと米専門店を買収し、農業生産法人を設立。
生産米による酒造りをするため酒蔵を買収と、ビジネスを派生させてきました。
現在、葬祭事業、農産事業、米販売、花卉事業、酒造業の9社が穴太ホールディングスの傘下にあります。
また、グループ関連商品を販売するオンラインショップ「穴太商店」も運営しています。
現在、グループ全体の年間売上げは約15億円で、葬祭事業としては葬祭会館が7カ所あり、年間施行件数は約900件です。
白石 事業としては相当伸ばされたということですね。
戸波 葬儀については、件数は伸びていますが規模が縮小し、家族葬で施行するケースがふえています。
グループとしては、インドへの日本酒の輸出、精米の卸販売などが伸びてきています。
白石 海外との取引という発想は、国内で葬儀社をやっていてそうそう出てくる考えではないかと。
戸波 日本酒の輸出は、私がイギリス留学で培った語学スキルとグループの人脈により大使館のイベントで話が進みました。
酒蔵買収には海外のお客様を引き込む意図もありました。
葬儀の返礼品にはお米があるということから農業やお米の卸売、日本酒へと広がってきたわけですが、葬儀が軸としてあるから次の一歩が踏み出せているのが現状です。
葬儀で得た利益を投資して広げていく感じですね。
バックヤード部分の人件費を下げるためデジタル化を推進
白石 RPA(パソコン上で行なう定型業務を簡単に自動化できる技術)などのシステムを業界に先駆けて導入していますが、きっかけや効果をお聞かせください。
戸波 今後、人口減・就労人口減が予測されるなか、私たちはお客様と対面する側に人手を割きたいと考え、バックヤード部分のコスト削減ができないかと思っていました。
発注業務が多いので、葬儀1件当たり半日かけて書類を40枚ほど書いていたのです。
取引銀行からの紹介でRPAを導入した結果、年間で10人程度の人件費を削減できました。
白石 革新的な取組みをされている御社にスマート葬儀を導入していただきましたが、その理由を教えてください。
戸波 人手不足のなかでなるべくお客様に接してサービスの質を上げたいと考えたとき、デジタル化による業務効率の向上は必須だと思いました。
スマート葬儀は顧客管理システムとして業務の「最初から最後まで」が揃い、そのサービスの包括性に惹かれたのです。
アナログとデジタルのいいとこ取りというか、既存の帳票をそのままに顧客管理機能を使えることも導入の決め手になりました。
また、御社に「PDF機能」の要望を相談したところ、意見を交わしながら希望通りの機能を共同開発してくださいました。
自社の帳票をそのまま使用してPDF出力ができるので、たいへん重宝しております。
白石 スマート葬儀は大手の葬儀社様に採用されたこともあり、最初は機能の拡充に重点をおいて開発していました。
その結果、小規模の葬儀社様にとっては使わない機能がふえてしまいましたので、小規模な葬儀社様向けに新たに別開発したものをご提供しています。
戸波 葬祭業界全体としてデジタル化が遅れているのは、その「使えない、使わない」が問題なのでしょうか。
白石 まず、お2人のようなデジタルスキルの高い人材を配置できる葬儀社様はあまりありません。
また長年の積み重ねで業務フローが俗人的かつ複雑化して、容易にはシステム化できないということもあります。
さらにデジタル化以前の段階で、業務の仕分け、新しいオペレーションづくりができない会社が多いというのが私の印象です。
実際にスマート葬儀のPDF機能を使っていただいて、効果検証の結果はいかがでしたか。
田澤 東京都を参考に人件費を1時間1,164円、3カ月で50件の葬儀施行がある会社という前提で試算したところ、PDF機能によって年間100万円超の人件費が削減できます。
時間的にみると、書類の作成・修正・確認や書類探しすべて含めた時間は、葬儀1件当たり20枚書く書類があるとしたらPDF機能によって約3時間半の減少です。
白石 なるほど。これからPDF機能を導入する葬儀社様には、システム利用料以上のコスト削減、業務の効率化が見込めるという試算が出ているということですね。
グループとしてマルチに人材登用 本業にとらわれない活躍の場を用意
白石 人材紹介の「スマート葬儀ジョブ」も導入いただいております。
御社の人材戦略をお伺いできますか。
戸波 グループとしていろいろな事業があるので、1人のスタッフが多様な場で活躍できるような環境の整備ということを軸に考えています。
近年は働きやすさが重視される傾向にあるので、残業が少ないなど労働環境のよさもアピールしています。
また、デジタル化で若い人材を採用しやすくなっています。
若くてもシステムを使ってスキル・経験のなさを補えますから。
それもあって全社的に若返りが進んでいますね。
従業員の平均年齢は十全社(90人)が30代後半、グループ全体(130人)が30代前半、20代だけの部門もあります。
白石 年間での募集・採用人数は何人くらいですか。
戸波 変動はありますが、年間2人程度です。
白石 「1人のスタッフが多様な場で活躍」というのは面白いですね。
葬儀で上手くいかなくとも、ほかの事業で活躍できるというのは企業としての魅力だと思います。
戸波 「適材適所」がモットーです。
仕事が合わない場合に別事業にというだけでなく、本人が望むなら売上げが出ていてもほかの事業への異動もあります。
実際、穴太商店の営業が葬祭事業の営業に移ったり、葬祭事業のバックヤードから商品開発・製作に移ったりといった人材移動は常時起きています。
経営方針として、「ずっと同じ場所にいるのをなくそう」と考えています。
長い期間同じ働き場所では発想力が低下していきますから……。
「心理的安全性」というか、従業員目線の雇用環境をつくろうとしており、自社開発の勤怠システムで異常な残業を検知できるようにしています。
労働環境をホワイトにすれば、従業員の士気もサービスの品質も上がります。
葬祭業はあまり人気職種ではないですが、十全社は穴太ホールディングスというグループでさまざまな角度から人が入ってきます。
誰かに負担が集中することがないよう、上手くまわる組織づくりを目指しています。
白石 葬儀社というよりIT企業のような採用戦略・人事方針ですね。
心理的安全性という言葉、この業界でははじめて聞いたかもしれません。
最後になりますが、今後の展望などを教えてください。
戸波 今後の展開としては、派生部分からの内製化です。
葬儀を軸にした派生ビジネスという方針は変わりませんが、たとえば農産事業で外注している部分をM&Aで内製化ということはあり得ます。
DXは私たち2人が内製化し、いまも他社の勤怠システム開発などに携わっています。
十全社としては、葬儀が小規模化する現状を踏まえると、多店舗展開するよりは現在の7会館で地元の需要に応え、低コストで施行していくという方針です。
白石 店舗数・葬儀件数をふやす戦略をとっている会社もありますが、グループの強みを活かして堅実に成長していくのも1つの成長戦略の方向性だと思います。
本日はありがとうございました。
参考URL:
(株)穴太ホールディングス
◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。
2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。