葬儀の質的向上と中小葬儀社の持続的運営を実現するプラットフォーム構築を目指す
【葬儀DX対談】荒井貴大 (株)セレモニー宝典 代表取締役×白石和也 LDT (株)代表取締役CEO
※この記事は月刊フューネラルビジネス2025年1月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。
今回は、LDT・白石社長が栃木県宇都宮市および周辺地域を商圏とする(株)セレモニー宝典・荒井貴大社長と対談。
同社の事業拡大や採用・教育、業界でのDX展望、さらには理事長を務める(一社)全国葬技協会について伺った。
若い世代が魅力を感じる環境を目指し出店を加速し規模拡大
白石 御社の創業から現在まで、荒井社長ご自身の経歴等も含めてお聞きできますか。
荒井 セレモニー宝典は創業60年、会社としては36期目になります。
私は三代目で、大学卒業後に神奈川県の葬儀社で修業し、そこで学んだことを活かしながらやっています。
私は「こうでなくてはならない」というこだわりはなく、「異業種のよいところを自社に取り入れながら発展させたい」と思っています。
ですから、社員には現状維持ではなくて自己成長・変化を求めています。
白石 社長に就任されてから出店など目覚ましい拡大ですが、どのような戦略で成果を出しているのでしょう。
荒井 基本的には、理念やビジョンを基本にして会社が変わらざるを得ない方向にもっていく、かつ誰もがWin-Winになるための手段が出店でした。
会社が成長すればさまざまな選択肢や社内のポジションもふえる。
給料も上がるかもしれないし、会社も変わらざるを得ないわけです。
私が会社に戻ってきたときの自社会館は3会館で、いまは10会館目を開設中です。
白石 今後どれくらい会館をふやしたいとお考えですか。
荒井 拡大することが目的ではなく、「選択肢がふえたらいい」と思っています。
そのためには出店やM&Aといったさまざまな成長戦略を模索しています。
若い人が働きたい環境をつくらないと、この業界は衰退していくしかない。
そのような環境をつくるには、会社にある程度の規模感がないとその実現はむずかしい。
M&Aでの事業拡大もありますが、大手に買収されたからといって、社員が幸せになれるとは限りません。
「買った/買われた」の関係ではなく、人や会社のカルチャーが合致してお互いのよいところのシナジーがなければM&Aは意味がないと思います。
その意味で、弊社の拡大は買い手候補として「セレモニー宝典とともにやっていくという選択肢」を示していくことでもあります。
白石 人材採用や教育はどのようにされていますか。
荒井 採用はトップがやるべきだと強く思っています。
私が直接新卒者に会社の理念・想いなどについて語ることで共有がしやすく、働きやすい距離感を保ちながら育成し、将来のキャリアを一緒につくっていっています。
教育については自社でできる部分とできない部分があります。
そこで、できない部分を他社とシェアリングするプラットフォームをつくりました。
たとえば、教える人やマニュアル作成をする人のシェアリングは十分可能でしょう。
人事部をもてない、採用担当者を配置できない、育成担当の手が回らない、そういった葬儀社さん同士で育成のノウハウやナレッジを共有できれば、負担軽減になっていくのではないでしょうか。
白石 それはいいですね。
葬祭業界はほかの業界と比べると相対的に就業環境が厳しいと思われますが、御社ではどのような就業条件を設計されているのでしょうか。
荒井 業界に関係なく、人が採用できる就業条件にしなければいけないという大前提があります。
そこから逆算し、どのようなオペレーションであれば実現できるか、という思考です。
当社は完全週休2日を実現し、現在の年間休日は105日ですが、10年後には130日までふやすのが目標です。
人事評価も数値化を考え、目標管理制度を導入し、数年で社内になじませていく予定です。
デジタル化とともに伝承していく葬儀の本質的価値
白石 葬祭業界のデジタル化は他業界よりも進んでおらず、そのため、人材採用や教育にも影響が出ていると思いますが、どうお考えですか。
荒井 スマホが当たり前の時代に、まだ「ガラケーがいい」と言っている感じですかね(笑)。
白石 それはわかりやすいたとえですね(笑)。
荒井 葬祭業界がデジタル化するには、一度デジタル化せざるを得ない状況になるべきであると思います。
ガラケーがなくなれば、誰だってスマホを使うでしょう。
デジタルツールは、デジタルに慣れた若手と、それが苦手な人とのコミュニケーションが生まれるきっかけにもなります。
うまく機能すれば、会社の文化をつくっていけるツールになるのではないでしょうか。
葬祭業界では培ってきた経験や技術を秘蔵してしまう職人気質があります。
新入社員はマニュアルや動画もなく、仕事を学ぶには「先輩を見る」しかない。
いくら先輩の働く姿を見ても、先輩ごとにやり方が違う。
デジタルツールはそうした経験や技術をオープンにし、継承していくためのものです。
若い人はデジタルに慣れていて、学び方を知っている。
ツールさえあれば意欲的に学ぶので、若手の強みを活かそうという発想が大切だと思います。
デジタルツールの導入にしても、導入や運用を任せて、それを評価してあげれば若手の実績づくりやモチベーションアップにもつながるはずです。
白石 本業とは別に 「全国葬技協会」を立ち上げ、理事長に就任されていますが、その経緯や設立の想いなどをお聞かせください。
荒井 全国葬技協会は「『人』を大切にする葬儀の本質的価値を伝承していく」をブランドプロミスとし、全国の葬儀社10社で立ち上げた一般社団法人です。
葬儀の質の向上と中小葬儀社の持続的な運営を目的に、その原点は「質と量の両立」です。
いま、どの葬儀社も収益向上やオペレーション効率を優先し、いちばんやりがいを感じる部分を省いてしまっています。
そこで「質を担保するために量をどれくらいふやすかを逆算する」という発想を活かそうと考えました。
「技」の文字を使ったのは、葬儀社が提供するのはサービスやコミュニケーションの技術である」という考えからです。
これは、葬儀社としての存在意義をいま一度考え直しませんか、という問いかけでもあります。
白石 全国葬技協会には、協会で使用するシステムを構築したいと弊社にお声がけいただきました。
なぜイチからシステムを構築しようと考えられたのでしょうか。
荒井 最大の目的は、加盟している葬儀社さんに使用してもらい、顧客・労務・経営管理などの面でデジタル化を進めてもらうことです。
「持続的な運営をしていくためにはどんなことが大切か?」ということを考えた場合、効率的なオペレーション体制の構築が大切になります。
そのためには、新たなシステムをイチからつくる必要性があると考えました。
デジタル化を進めながら加盟社の働き方をよりよくしていくためには、各社へリテラシー面を含めお伝えしないといけないと思っています。
システム開発では、さまざまな葬儀社の声を聞きすぎてもいいものはできないでしょう。
システムに合わせることも必要ですし、こちらから要望することも大切になってきます。
協会がフロントに立てば、そのバランスがとれ、よりよいシステムができるのではないでしょうか。
白石 確かにシステム導入の前提として、現在の業務を仕分けし、何の業務をやめるのか、業務のコアとして何を残し、何を自動化し何を外注に振るかという意思決定が必要だと思います。
ですので、いまある業務をすべてシステムで行なうというのではなく、目的から逆算してシステムに業務を合わせたほうが効率が上がる部分も多々あります。
最後になりますが、今後の御社と全国葬技協会の展望をお伺いできますと幸いです。
荒井 弊社については、先に申し上げた選択肢をふやすための出店やM&Aなどの模索を続けていきます。
協会については、5年後に100社の加盟を目標に掲げていますが、正直なところ、そこまで早く影響力を行使できるほど甘い世界ではないと思います。
今後はシステム、ブランディングなどさまざまな切り口でコンテンツを充実させていきながら、有用なプラットフォームとして使用してもらえるようにしていきたいです。
そこから、「品質の担保」や「会館運営」に特化した力のある加盟社さんが出てきたら面白いですね。
白石 本日はありがとうございました。
参考URL:
株式会社セレモニー宝典
https://www.houten.co.jp/company/
◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。
2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。