墓所・納骨堂を集客支援し“お参り”機会促進 葬儀顧客のデータ活用も視野に
【葬儀DX対談】𫝆橋計貴 (株)goenn 代表取締役×白石和也LDT (株)代表取締役CEO
※この記事は月刊フューネラルビジネス2025年4月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。
今回は、LDTの白石和也社長が、「お参り」という習俗・儀礼の文化を軸として事業展開し、納骨事業者向けコミュニケーションプラットフォーム「musuhi」等を提供する(株)goenn・𫝆橋計貴(いまはしかずき)社長と対談。
同社におけるお参りの考え方やシステムの概要、供養業界の現状や今後の展望などについて伺った。
デジタルマーケティング業界からお墓・納骨堂業界に参入
白石 𫝆橋社長のキャリアや創業までの経緯をお伺いできますか。
𫝆橋 私はアメリカの大学で学んだのですが、夏休みに一時帰国したとき、ドラッグストアに入店すると以前は国内メーカーの商品が並んでいた棚が海外メーカーの商品に入れ替わっていました。
国のGDPや成長率、人口に大きな変化はないのに、企業だけが外資にすり替わっていることに気づき、国内企業を支援したいと、マーケティングの仕事に従事することを決意しました。
帰国後、CRM業界大手のマーケティング会社に入社しクリエイティブとマーケティングに携わりました。
同社を退職後、外資系マーケティング企業の日本法人の立ち上げや、さまざまな会社のマーケティング担当役員などを務めました。
お墓の問題に焦点を当てて起業しようと考えたのは7年ほど前です。
私の実家には5つの墓があり、お墓参りがたいへんで、年々親族がお参りする機会が減っていると感じていました。
さらに留学中に祖父の法要に参列できなかった経験から、お参りしたい気持ちがあるのにできない人がいる状況をどうにかしたいと考えました。
お墓には、大きく「遺骨の収蔵」「お参りの対象」という2つの役割・機能が存在します。
遺骨の収蔵という観点でビジネスをはじめるのは、法令上新規参入がむずかしいため、遺骨の収蔵イコール故人と考え、故人とご遺族の関係性に焦点を当てた「お参りの場」をつくろうと考えました。
お参りの対象という観点では、お参り自体をより楽しく、身近に感じてもらうために、いまの商習慣にあった親近感のあるお参りをつくるべきだと考えました。
この2つには、従来とは異なるお参りのあり方・やり方が存在すると考え、「新たなお参り」として、業界に新規参入できると確信しました。
当初からオンラインを活用した参拝を事業軸にしていますが、参入当初は業界関係者から「罰当たりだとか、とんでもないことしてくれるな」と非難されました。
しかし、コロナ禍でお参りがむずかしくなりオンラインでの参拝に追い風が吹くなか、満を持して2年半前に創業しました。
白石 そうして開発された御社のシステムやサービスについてお聞かせいただけますか。
𫝆橋 私たちは、「故人と個人のご縁を結ぶ」を会社ミッションに掲げ、「お参り」を通じた新たなご縁をデザインする会社です。
生活者向けお参りプラットフォーム 「goenn」と、納骨事業者向けコミュニケーションプラットフォーム 「musuhi」を提供しています。
goennは、お墓の機能である「お参りの対象」からのアプローチで、生活者がお参りにおける「探す・えらぶ」「知る・まなぶ」「買う・届ける(2025年上期に実装予定)」のすべてを解決するプラットフォームです。
全国の墓地・霊園から最適な場所を選び出し、お参りにまつわるさまざまな情報を得ることができるほか、新たなサービスを購入できる機能も実装予定です。
一方、musuhiは「遺骨の収蔵」からのアプローチ、つまり寺院・神社、自治体、納骨堂事業者などの活用を想定したプラットフォームです。
簡単な設定やコミュニケーションだけで、お墓・納骨堂の利用者獲得といった営業支援、重要書類管理、顧客管理などまでペーパーレスかつオールインワンで行なえるシステムです。
特徴的なのは故人だけでなく、その続柄・利用者のデータを一括管理・活用できることです。
そもそもお墓・納骨堂の事業者で、納骨されている人の年忌法要等の連絡を利用者にしている事業者は多くありません。
musuhiでは故人を起点に近親者への連絡がメールで自動配信でき、LINEやSMSでの配信にも今後対応予定です。
たとえば納骨されている人と利用者の続柄が父子である場合、年忌法要のみならず「父の日にお墓参りはいかがですか」などの連絡が可能になります。
これは、私どもが掲げる「故人と個人のご縁を結ぶ。」を具現化したものです。
白石 musuhiが近親者への自動配信機能を有するというのでは、当社の「スマート葬儀」ではカバーしきれていない部分です。
「スマート葬儀×musuhi」という連携ができれば、葬儀から埋葬・納骨、墓所の管理、継続的な供養までワンストップでサービス提供できると考えています。
実は、とある葬祭事業者さんからご相談をいただいており、今後その事業者さんと連携していくことを検討しています。
𫝆橋 そうなのですね。
いまのところmusuhiのユーザーさんは大きな霊園やお寺さんが主で、葬儀社さんはいません。
今回の連携には大きな可能性を感じています。
芳名帳などと連動し、さまざまな続柄のデータを納骨後も保持して活用すれば、対象者に法要の案内などをメールやLINEで送ることが可能です。
スマート葬儀で葬儀情報、musuhiで葬儀後・納骨後の続柄情報を管理することで顧客満足度や葬祭事業者のアフターセールスは向上します。
それは日本の死生観に基づいた葬送文化を守り、お参りという習俗・儀礼の文化を次世代に継承することにもつながっていくのではないでしょうか。
「故人」と「個人」のご縁をつなぎビジネスチャンスを拡大
白石 御社は某大手少年誌に連載されていた、漫画キャラクターの葬儀・法要などの企画を予定され話題になりましたが、何がきっかけだったのですか。
𫝆橋 発想の原点はいくつかあるのですが、1つは私が中高生の頃に流行したゲームに恋愛シミュレーションゲームの走りがあって、「二次元に恋する人」がふえたと感じました。
それで「二次元のキャラクターに恋することができるなら、追悼もできる」と考えたのです。
また、「某有名テーマパークで結婚式はできるのに、何で葬儀はできないのか」という疑問も背景にあります。
私の世代以降では、ゲームや漫画・アニメのキャラクターに教えてもらったことが人生の教訓になっている人が多い。
そうしたコンテンツが、人生を変えるだけの影響力があるものになってきたわけです。
そうであるならば、ゲームや漫画・アニメキャラクターなど、本来命をもたないものに対する追悼も、日本的なのではないかと。
たとえるなら、針供養などもそうした考えにもとづくものだと思います。
起業したときに、「世界に先駆けて多死社会を迎える日本で、世界に先駆けてお墓やお参りの問題を解決したい」と考えました。
「お参り」を「omairi」として世界に発信していくにあたり、キャラクターの葬儀・法要というきわめて日本的なものは、大きなフックになると考えています。
白石 よくわかりました。
最後に、今後の展望などをお聞かせいただけますか。
𫝆橋 「いま、供養業界は傾きはじめている」と多くの人が言います。
しかし、この人口減少社会で、どの業界も必然的にシュリンクしていくわけですから、供養業界だけではないと思いながら事業を展開しています。
そのうえで、「私たちのビジネスって唯一マーケットが拡大しているのでは」とも思います。
葬儀は故人につき1回ですが、「お参り」は何回もできる、亡くなった人の数は積算していきますし、今後はペット供養も事業領域に入ってきます。
また、企業墓にも注目しています。
従業員の死後、埋葬も企業が面倒を見るというもので、そうなれば継続的な供養、お参りニーズはさらに高まります。
故人は1人でも、そのまわりのお参りする人は無限大。
「故人」と「個人」のご縁をつないでいけばいくほど、私たちのビジネス領域は伸長していくでしょう。
「人は2度死ぬ。1度目は肉体が死ぬことで、2度目はまわりの人たちに忘れ去られて」
という言い方があります。
私たちはこの2度目の死を防ぐため、お参りという習俗・文化を守っていきたいと考えています。
白石 この業界に参入したい人は多いですが、本当に業界を理解して、やり切れるだけの実力をもった人はあまりいないと思います。
御社はその数少ないやり切れるプレーヤーであると感じました。
本日はありがとうございました。
参考URL:
(株)goenn
◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。