【葬儀DX】葬祭事業者のあるべきDXとは?着実に成果を上げる事業者が増加中

※この記事は月刊フューネラルビジネス2023年6月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。

人口統計データを基にした現状認識がDX推進の背景

弊社(LDT株式会社)では、葬祭業界特化型顧客管理システム「スマート葬儀」の提供を軸に葬祭業界のDXを推進してきた。その背景には、人口統計を基にした現状認識がある。


国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年の死亡者数は年間168万人、21年の約1.2倍となる。
さらに(独)労働政策研究・研修機構が行なった推計では、就労人口が40年には1,285万人減少する可能性があり、65年には現状の約3分の2になるという。


つまり、現状の約1.2倍となった件数の葬儀を、現状の約3分の2の人員で施行していかなければならない日が迫っているのだ。


いや、いまでも葬祭事業者の人手不足や高齢化が問題になっていることを考えると、
「現状の約3分の2の人員で」という予測すら楽観的すぎるかもしれない。


こうした「嘘をつかないデータ」である人口統計を基にした現状認識が、葬祭業界では極めて薄い。
例えば、厚生労働省が公表した「人口動態統計(速報)」では、22年の死亡数が約158万人と前年比8.9%の増加。


当然、施行件数ベースで前年比8.9%以上ふえていない葬祭事業者はマーケットに取り残されている、
業績が下降しているも同じなのだが、弊社が葬祭事業者向けに開催したセミナーで説明したところ、
このことを自覚している受講者はほとんどいなかった。

葬祭管理システムと会計システムでオペレーションが完結する体制が理想

高齢多死社会で葬儀件数は増えるが、会葬者数は減って葬儀単価は下落する。
就労人口も減り、そしてほとんどの葬祭事業者は夜間対応・休暇日数などの労務問題を抱え、人材採用もままならない。

そうしたなかでもオペレーションを回せる体制を整えるためには、まず既存の常識を捨てオペレーション上でやらなくてもいいことを止め、残さなければならない業務のうち人がやらなくてもいいことのデジタル化・自動化、つまりDXが必須だ。

葬祭事業者のDXの理想像として、弊社では葬祭管理システムと会計システムの2つのシステムでオペレーションが完結する体制を挙げる。

顧客コンタクト、受注・施行、事務・会計、アフターそれぞれの担当が効率的に連携し、
問合せ対応から搬送・安置、打合せ・見積り・発注、通夜・葬儀の施行、アフターまでが1つにつながるという考え方だ。

そして弊社では、この理想を実現するシステムを提供し、すでに多くの葬祭事業者が導入して実績を上げている。
例えば、地域シェア率が高い大手事業者に導入されている「訃報一覧のデジタル化」は、
その事業者に施行を依頼し、かつ一覧への掲載許可を得た訃報をサイト特設ページに載せるものだ。

特設ページからは供花や供物、香典の依頼ができ利便性が高い。
葬祭事業者にとっては施行情報から訃報をワンクリックで掲載できるためコストや手間の面で新聞の訃報案内に勝り、供花・供物・香典の受付・発注業務も軽減されることになる。

「訃報案内のデジタル化」では、施行情報の入力で訃報案内が自動作成される。
情報は喪主・遺族にワンクリックで提供でき、喪主・遺族は参列してほしい人にメールやLINE、SMSなどをとおして案内することができる。

供花・供物などのEC機能との連携も可能だ。
導入社数は百数十社におよび、年間約7万件使われている事例もある。

葬祭事業者の公式サイトに連動した事例も多い。
例えば、問合せシステムでは、公式サイトに合わせたデザインの問合せフォームを用意、
そこに顧客が入力した内容がそのままデータベースに載る。

また、セルフプランニング(見積りシミュレーション)では、公式サイト上で顧客が葬儀料金をシミュレーションでき、問合せがあったときに担当者はその結果を見ながら対応できる。

EC機能では、供花・供物について注文対応の簡略化を実現、
決済方法もクレジット・銀行振込みなど複数設定が可能で売上げアップにも大いに貢献している。

DXにおいてはデジタルで完結することが理想だが、その場合、提携先が対応できないこともあり得る。構想段階であるが、「自動ファックスによる発注とリファックス」機能の実装も視野に入れている。
これは送られてきたFAXをOCRで読み込んでデータとしてスマート葬儀に収納、
メール/FAXでの注文を一元管理し発注作業を自動化、発注者には必要に応じてFAXまたはメールで送信するというもので、主に供花の受注業務での使用を見据えている。

顧客への情報発信についても注力している。
LINEとの連携では、命日を起点としたステップ配信など会員情報とIDを連携させたメッセージ配信や、
会員/非会員によるLINEリッチメニューの出し分けを実現、また到達率・開封率の高いSMSやLINE、メールでは、テンプレート登録や配信予約、条件による自動配信により会員情報や施行情報の登録からアフターフォローまでワンストップでの自動化で売上げアップと工数削減に貢献している。

顧客コミュニケーションの円滑化という点で、CTI(電話回線連携)も重要だ。
弊社のシステムでは、入電・発信時に顧客情報を自動表示し、発着信履歴や対応履歴も確認できるほか、通話録音・テキスト化で顧客要望の重要な部分を正確に把握、「言った/言わない」を防ぎ、
担当者不在時の円滑な対応など顧客対応の品質を向上させる。

会計システムとの連携では、API連携による入金確認・消込処理の自動化を実現したほか、
キャッシュレス化の第一歩として顧客情報からの銀行振込用紙の自動生成機能をリリース、事務作業を大幅に削減している。

葬祭事業者のDXを「業務のうち(社内の)人がやらなくてもいいことの削減」という視点で捉えた場合、電話対応は1つのターゲットになり得るだろう。弊社では「スマートコール24」という名称で24時間の電話対応サービスを提供している。
葬儀依頼の受電からはじまる窓口、寝台車や協力会社の手配をする受発注窓口、相談や会員受付の事前窓口、位牌・墓・遺品整理などのアフター窓口、僧侶手配などの宗教者窓口として機能するもので、
各事業者にとって労務改善にもなり、受注率も高まる。

労務改善という視点では、「スマートコール24」とセットの夜間搬送の外注化がある。
これは逝去連絡を「スマートコール24」のコールセンターが受け、受注をスマート葬儀に入力するとともに搬送事業者を手配するもので、担当者は引き継ぎデータを基に翌朝から打合せを行なえばよく、夜間業務の必要がなくなる。

葬祭事業者のDXにおいて、売上げ面でDX前と最も大きな変化を起こせるのがアフターセールス、特に不動産や相続の受任である。
従来は、葬儀後に遺族に資料を渡し連絡があれば不動産事業者や専門家につなぐ「受動モデル」か、
葬儀前後に担当者が資料で説明し不動産事業者や専門家を紹介する「トスアップモデル」のアプローチしかできなかったものが、問合せ対応から施行を経てアフターまでが1つにつながる体制が構築できれば、葬儀前後に担当者が遺族にアフターサポートの電話があることを了承してもらい、後日必ず架電する「全件架電モデル」のアプローチが可能になるからだ。
弊社調べでは、全施行数に対する受注(受任)率は「受動モデル」では不動産受任1%未満・相続受任1%以下、「トスアップモデル」では同1%前後・8~10%なのに対し、「全件架電モデル」では同2~3%・10~12%に上る。

DX化に着手した葬祭事業者は確実に成果アップ

弊社では、「現状の業務を一度分解して、本当にやらなければいけないこと以外を捨てる」ことがDXの最初のステップだと考えている。いまのオペレーションをそのままシステム化しようとすると、かえって非効率に陥りかねない。

現状の業務を分解し、本当にやらなければいけないこと/やらなくてもいいことを判別していくのは、おそらくいままで葬祭業一筋にやってきた事業者にはむずかしいことだろう。あるいは客観的な視点、コンサルなど外部の目を入れた方が効率よくDX実現への一歩を踏み出せるかもしれない。弊社がコンサルティング事業を手掛けているのにはそうした意味もある。
 高齢多死社会の進行・就労人口の減少という流れから逃げ切ろうとするか、その流れに対応して変化しようとするか。変化しようとする事業者が着実に成果を出しつつあることは明らかである。

◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。