地域密着の老舗葬儀社がエンバーミング導入で過去最高単価に向上

【葬儀DX対談】大村直央氏㈱オームラ 代表取締役社長×白石和也LDT㈱ 代表取締役

※この記事は月刊フューネラルビジネス2023年10月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。

21年8月に開業しオームラのたエンバーミングセンター

今回はLDT・白石社長がこれから「スマート葬儀」を本格導入する㈱オームラ(本社福井県福井市)の大村直央社長と対談。同社での組織改革やエンバーミングの導入、葬祭業界の展望などについて語った。す㈱真浄葬祭(本社福岡県中間市)の冷牟田真二社長と対談。同社での人材活用や業務効率化、葬祭業界の展望などについて語った。

職人集団から組織として動く会社へ四代目が最初に取り組んだ社内改革

白石 まずは御社の概要と、大村社長が代表になるまでの経緯をお伺いしたいのですが。


大村 オームラの創業は昭和元年、1926年です。ありがたいことに100年近く福井市を中心とした地域でやらせていただき、いまは福井市および坂井市で8か所の葬祭会館を運営、年間施行件数は550件程度になっています。
弊社のWebサイトでも「『おくる心』を『感謝の心』と『奉仕の心』でお手伝いさせていただくことで地域社会に貢献します」と掲げているように、創業以来「おくる心」を大事にしています。故人様とのお別れにおいてお客様に「おくる心」を感じていただく、それが葬祭文化をつくり、社会貢献につながっていくと信じています。
 私が四代目社長になったのは、2018年でした。18歳のとき三代目の父が亡くなり、家業を継ぐために愛知県内の葬儀社に修業に行き、その後エンバーミング技術を専門学校で学び、会社に戻ってきたという形です。


白石 そのとき、課題に感じていたことはありましたか。


大村 少子高齢化など、社会が変動するなかでお客様のニーズが変わってきている。当然、葬儀社も変化していかなければならないと強く感じていました。
 まず「変えないと」と思ったのは会社の文化ですね。社員は、どの会社でも通用する葬儀のプロフェッショナルでした。ただ、お客様の言うとおりきっちり仕上げるだけの職人の集まりになっており、会社が方針を示しても聞く耳をもってもらえませんでした。やはり、「同じ方向を向きたい」という思いがあったので、組織という意識をもたせる取組みをしなければと思いました。


白石 その後、職人集団から組織として動く会社に変えるため、さまざまな取組みをされたのですね。御社では会館のドミナント展開も精力的ですが、その経緯・ねらいについて教えてください。


大村 創業から100年近く、既存会館は大規模で、地域では知名度は高いです。そのため、家族葬専門に業態を変えるのはむずかしく、いまあるハードを活かそうと思いました。同時に会館はリブランディングし、グリーフケアを軸にした式場づくりを考えました。リブランディングで新たな葬送空間をつくるとなると、ある程度のシェアが必要でしょう。そのためのドミナント戦略でした。個人的には展開エリアで約25~30%のシェアがあれば、地域の葬祭文化を変えていくことが可能と考えています。


地域初のエンバーミングのサービス展開導入2年目で受注率約85%


白石 御社はエンバーミングに非常に力を入れておられますが、そのきっかけは何だったのでしょう。


大村 最初は修業先での経験でしたね。そこではエンバーミングを導入していて、担当した葬儀で、お客様がエンバーミングの仕上がりに涙して喜んでおられたのを見て、大きな衝撃を受けました。これはぜひ地元福井の方にも体験してもらいたいと思いました。
 エンバーミングというと、火葬場の空きを待つ「日延べ」と捉える人が多いのですが、グリーフケアの観点でも重要です。ご遺族様にとっては故人様への恩返し・供養になり、葬儀社から見れば故人様に直接差し上げられる唯一のサービスなのではないでしょうか。


白石 地域で最初にエンバーミングというのは苦労も多かったのではと思うのですが。


大村 修業先ではエンバーミング受注率が約8割だったので、福井でも同様にできると思いました。しかし、立ちはだかったのは、社内の理解です。専門学校の卒論のために社内アンケートをとった際、「福井でエンバーミングが普及すると思いますか」という問いに対し、ほぼ全員が「普及しない」と回答しました。理由は「必要ない」いまのままで十分」と先ほどの職人気質で、社員は従来の、自分たちのセレモニーが完璧だと思っていたのです。


白石 社員の意識を変えるために、どうされましたか。


大村 しっかり対話することですね。本気でよいものだと思うのであれば、それを伝え続けることが大事だと思います。お客様、社員のためになぜ大事かを言い続ける。上意下達で「やらせる」手法では社員の主体性がなくなりますから。根気強く対話した結果、導入に至り、初年度約78%、2年目の今年は約85%の受注率になりました。


白石 導入してすぐにその受注率は素晴らしいです。導入する経営的メリットもお聞きしたいのですが。


大村 まず、顧客満足度の向上があります。エンバーミングについて安置時に説明し、早い段階で施行します。エンバーミング後に自宅安置し、弔問客から「よい顔だ」と言っていただくことがグリーフケアにつながります。
 さらに、社員満足度も向上します。葬儀施行を終えた段階で「ありがとう」と言われることが多いと思いますが、弊社ではエンバーミングが完了した段階で「ありがとう」という言葉をもらえるのです。
 社員教育としての面も無視できません。エンバーミングというサービスをただ販売するのではなく、グリーフケアの観点で提供することで、お客様のことをしっかりと見て、反応を受けとめるようになっていきます。
 コロナ禍で単価が一時期約30%下がりましたが、21年7月にエンバーミングを導入したところ、他の施策の効果もあいまって過去最高の単価に向上しました。


事業者として遺族として知っているエンバーミングの魅力を伝える


白石 葬祭業界におけるM&AとDX、この2つのテーマについてもお伺いしたいと思います。


大村 M&Aについては、事業承継の1つの選択肢となっていくのではと思います。業界内の統廃合については、M&AやFC展開などで全国展開していく葬儀社と、地域密着で仏壇やお墓、相続・不動産といった周辺事業にも注力し、葬儀だけではない価値を提供していく葬儀社との二極化が進むのではないでしょうか。
 DXについては、顧客情報を活かして葬儀後に適切なタイミングでどのようにアプローチするかが大切になり、そこを自動化するのが葬儀社のDXの軸になると思います。一方で、やはり私は接客など「人でなければならないところ」はあると思います。人をおくる気持ちという根幹はしっかり残しておきたい。人でなくてもいいところはデジタル化してもいいのかなと思っています。


白石 御社には弊社のスマート葬儀も試験導入いただき、これから本格稼動がはじまるところです。


大村 デジタル化については社内でも取り組みましたが、やはり弊社の規模では専門人材を継続的に確保するのがむずかしい。LDTさんのようなプロに任せた方が、費用対効果も高く、スピードも早いと思います。


白石 ありがとうございます。引き続き期待に応えられるようがんばります。最後になりますが、今後の展開についてお聞かせください。


大村 そうですね。エンバーミングを導入したことでさまざまなメリットがありました。また、二代目にあたる祖父のエンバーミングは私が施術しました。自分自身、葬儀社、遺族の立場としてもエンバーミングの素晴らしさをよく知っています。そこで、エンバーミングを国内にもっと普及させたいですね。
 もちろん、導入にはさまざまなハードルがあります。エンバーマー資格保有者をすぐに採用できるわけではありませんし、施設の建築コストや社内の意識改革、お客様への訴求、と多くの課題が出てくるでしょう。
 今後、そういった部分を私たちがサポートしていきたいと考えています。実際、何社かお声がけがありまして、この夏には他社のエンバーミングセンターの立ち上げをサポートさせていただくことになりました。


白石 大村社長のエンバーミング愛が伝わる話ですね。この対談をきっかけに、エンバーミングにトライしてみたいという葬儀社様は大村社長に連絡してほしいですね。


大村 問い合わせ、相談だけでもいいですし、そこは柔軟に対応できればと考えています。


白石 オームラさんの取組みは以前から楽しみにしていました。今後もっと広がっていってほしいと思います。本日はありがとうございました。


大村 ありがとうございました。

参考URL:

株式会社オームラ

https://www.kk-oomura.co.jp/

◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。