「スマート葬儀」を導入しスピード感ある対応でアフター強化
【葬儀DX対談】酒井優城氏㈱神東社 代表取締役×白石和也LDT㈱ 代表取締役
※この記事は月刊フューネラルビジネス2023年9月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。
今回はLDT・白石社長がこれから「スマート葬儀」を本格導入する㈱神東社(本社神戸市中央区)の酒井優城社長と対談。神東社における会館展開やアフターサービスへの取組みなどについて語った。
さまざまな亡くなり方を見たことが「命の尊さ」「死の尊厳」を考えるきっかけに
白石 創業92年、神戸市中央区、灘区、東灘区、垂水区を中心に年間1,100~1,200件を施行している神東社さんの沿革と酒井社長自身についてお聞かせください。
酒井 神東社のルーツは、1931(昭和6)年に開業した小西葬祭店です。三代目の頃に創業者が株を譲渡する英断をしまして、それ以降、四・五代目、そして私で六代目ですが、生え抜きの社員が社長を務めています。
私はもともと葬祭業の人間ではありません。95年の阪神・淡路大震災で小学校以来の知人が亡くなり、手を合わせに行ったとき、埋葬に従事していたのが神東社でした。当時はご遺体を4体一緒に搬送し火葬するというような凄まじい状況で、そこで感じるものがあり、神東社の門を叩いたのです。
入社後、初日から大学病院で監察医の手伝いをする部署に出向となかなかハードでしたね。それまでご遺体など見たことがなかったのに、いきなり変死体を目にするわけですから。しかし、そこでさまざまな亡くなり方を見たことは「命の尊さ」「死の尊厳」を深く考えるきっかけになっています。
出向先から戻り施行担当となりました。手前味噌ですが営業をしっかりやらせていただいたことで、32歳で常務取締役を拝命しました。ところが、その翌年、売上げの約7割を占めていた受注先から、諸事情があって外れざるを得ず、会社が傾くんですね。
まずは価格見直しと営業強化で持ち堪え、さらに高価格帯の葬儀だけでなく、生活保護受給世帯などの低価格帯の葬儀も疎かにしない体制に方向転換しました。その結果、小規模の葬儀がふえ、本社会館を家族葬に特化した式場にリニューアルすると、単価の下落分が件数でカバーでき、売上げが徐々に戻りました。亡くなった友人や祖母、葬儀を手伝わせていただいた故人様、そういう魂が会社を助けてくれているんだと、ありありと実感しています。就任の10年ほど前から次期社長になることは決まっており、19年に就任しました。
白石 お伺いすると、運命というか、流れというか、そういったものがあるような気がしますね。社長に就任してから「経営理念」をつくられたのはなぜでしょうか。
酒井 弊社には、創業者以来代々の経営理念があります。新しいものを取り入れながら、古い真理を守っていくために経営理念は変化すべきものでしょう。私の場合は故・稲盛和夫さんの「盛和塾」で学ぶ機会があり、なかでも従業員がいちばん大事ということを教えていただいたことが大きかったのです。そこで、社長就任時に経営理念を「一度しかない人生において 神東社の全スタッフとその家族の物心両面の幸福を追求すると共に 葬儀サービス業を通じて、命の尊さを伝えることで地域社会に貢献致します」というものにつくり直しました。
白石 なるほど。従業員を大事にすることが顧客第一主義、社会貢献にもつながる。「三方良し」の考え方ですね。
「神東社に頼めば何でも解決してくれる」理想のアフターサービスを目指す
白石 御社では以前から生花部の内製化とともに、納骨堂販売などのアフターサービスの部門を展開していますね。
酒井 生花の内製化については、これも盛和塾で学んだことなのですが、経営の要諦は売上最大・経費最少にある。それで外注コストがいちばんかかっていた生花事業を内製化しました。実際、粗利益の状況が格段によくなりました。弊社では「感動創儀」をテーマに掲げているので、ご遺族に花の色合いなどの要望を伺い、ご遺族や故人様の想いを反映した祭壇を、自社の生花部と情報共有しながらつくり上げています。
アフターサービスについては外商部が担っていますが、特に納骨堂の販売状況は非常にいいです。お参りがしやすく、適正価格の納骨堂の需要は高い。弊社ではバス送迎で年2回合同慰霊祭をしますのでお客様にとっても喜んでいただける。お寺様もご縁が深くなるということで喜んでいただける。経営的にも粗利益率は高い。許認可取得が困難な神戸市で提供することで地域貢献にもつながる。おっしゃったように三方良し、ひょっとしたら四方良しではないかと思っています。
アフターサービスのコンセプトは、葬儀だけでなく仏教的に50年は弔っていただきたいというのが1つ。それから、葬儀という非日常から日常に戻られるプロセスで何かお役に立てることはないかというのが、もう1つです。相続手続きサポートも提供していますし、今期中には不動産事業にも着手する予定です。「神東社に頼めば何でも解決してくれる」ことを目指し、外商部には注力しています。
白石 葬儀後の不動産はやはり大きい問題ですね。1都3県や大阪・神戸だとそれなりの金額のものも出るので、お客様のお手伝いもしやすいのではないかと思いますね。
ところで、業務のDXにも積極的に取り組まれましたね。
酒井 葬儀のDXは必要だと思っていて、白石社長のところの「スマート葬儀」を導入しました。LDTさんのスピード感と、むずかしいことをわかりやすく説明していただけるところが決め手ですかね。社員一同、これは絶対お客様のためになるし、強い営業パートナーになってもらえると確信しております。いまはまだ紙ベースの見積書や請求書・領収書の対策と、これはLDTさんにお願いしているのですが、たとえば、現場の打合せでの料理の発注がそのまま業者さんとバックオフィスにつながることができればもっとスピーディだね、というのが理想です。
白石 ありがとうございます。それから出店に関してですが、14年から灘区、東灘区に3会館を立て続けにオープンされておられますね。
酒井 本社は神戸市中央区にありますが、中央区以西は大手互助会2社が圧倒的に強い。そのため東で競合できるよう灘区、東灘区と東進していきました。東灘区のさらに東の芦屋市では条例により会館建設ができませんから、東灘区への出店は商圏的に大きいです。市内を東西に横断する幹線道路は山手幹線、国道2号・43号が走っていますが、今後は需要が見込める国道2号・43号沿線に出店して各区でのシェアを伸ばしていきたいと思います。
白石 たいへん勉強になります。伺っていると、スピード感をことのほか重視されていると弊社担当からも聞いておりますが、意識はされているのでしょうか。
酒井 やはり私の根底には盛和塾での学びがあります。稲盛さんから教えてもらった「経常利益10%、自己資本50%超えるのが当たり前」が基準で、それを守るためには環境にスピーディに対応していかないと生き残れないという恐怖感がありますね。
私は「世のため人のため」をモットーとしています。さまざまな亡くなり方を見てきて、葬儀社の役割は非常に大きいと思うのです。会社を強くして、1件でも多くの葬儀をお手伝いすることで、命の尊さや死の尊厳を伝えることがいちばん重要。微力だけど、この国をよくしたい、そういう思いがありますね。
白石 なるほど。社長の考えに共感するとともに、尊敬できる経営者の方だと感じました。最後に、今後の経営戦略や展望などをお伺いできますか。
酒井 まずは、CSRのみならずCSV(Creating SharedValue)経営を目指します。「世の中のためになることがビジネスになる」。これを全社員と共有し、そのうえで今後の展開として先ほどお伝えした不動産事業、通夜・葬儀でお手伝いいただける献茶さん、私らはキャストレディといいますが、この方々の活躍の場をつくりたいと考えています。
数年前から「寺子屋」をつくりたいとも思っています。会館を活用して、近所の方や会員さんのお子さんに月1回集まっていただいて、無料で道徳教育、教育というか伝統文化、歴史、道徳をともに学ぶ、感謝する心を育む場にしたいと。そんな場を、子ども食堂さんとか地域の学校、もちろん行政も含めてお力添えをいただいて実現したいと考えています。
白石 なるほど。素晴らしいですね。本日はありがとうございました。
酒井 ありがとうございました。
参考URL:
神東社
https://www.shintosya.co.jp/
◆この記事の監修者プロフィール
LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。