業界外出身の視点で社内改革を推進「スマート葬儀」の導入でさらなる好循環
【葬儀DX対談】秋野圭崇 (株)セレモニー代表取締役×白石和也LDT(株)代表取締役
※この記事は月刊フューネラルビジネス2024年2月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。
今回はLDT・白石社長が東京都中野区を本拠に、都内および千葉・埼玉・神奈川の1都3県で葬祭事業等を展開し、「スマート葬儀」の導入先でもある専門葬儀社㈱セレモニーの社長・秋野圭崇氏と対談。同社の戦略や現況、「スマート葬儀」導入の経緯と利用状況について伺った。
栄養士、営業職を経て葬祭業界に転職した異色の経歴
白石 創業45年を迎えられる御社ですが、創業から秋野社長が継承されるまでの大まかな流れをお聞かせください。
秋野 私どもセレモニーは、1979年に創業した専門葬儀社です。設立早々、生協のパルシステムさんと提携し、事業を拡大してきました。年間の施行件数は800件弱です。
私は業界外で長く働いていました。もともと大学病院の栄養士で、「食べる力の衰えた人にいかに食べてもらうか」という課題に取り組んでいたのですが、病院側の閉鎖的な考え方が合わず不動産投資会社に転職。さらに祖母の葬儀をきっかけに、「もっと地道な仕事をしなければ」とセレモニーに入社しました。社長就任は平成から令和に代わるときですから、社長歴も長くないのです。
白石 御社はさまざまな新しい取組みをされていますが、秋野社長が業界外出身ということが大きいのでしょうね。2022年にご遺体安置と数名でのご葬儀ができる拠点を整備されましたが、稼動状況や成果はいかがですか。
秋野 自宅安置できない遺族の依頼でご遺体を安置し、その流れで納棺やお花入れをしたり、ご親族が集まってしばらく故人様と時間を過ごしたりする場所にしています。火葬件数が多い時期で月15~16件の稼動です。
白石 同じ年に民間火葬事業者がはじめた、同グループで葬儀をとり行なうサービス提供により都内に会館をもつ葬儀社様は少なからず影響を受けているという話を聞きますが、会館をもたない御社はいかがですか。
秋野 弊社の施設は葬儀式場ではなく安置所兼お別れ室です。葬儀をするのであれば火葬事業者が、火葬前にお別れをしたい方は弊社というように、その目的によってお客様がお決めになるので、影響はありませんね。
供花受注の業務負担を軽減する「スマート葬儀」
白石 数年前より「スマート葬儀」を導入いただいていますが、導入経緯や利用状況などをお聞かせ願えますか。
秋野 スマート葬儀を導入する前は、訃報を紙に印刷してお客様に渡したり、お客様からFAXが送られてきたりといった無駄な作業がとても多かったですね。ご遺族に葬儀時に撮影した画像をCD-ROMに焼いて送ることもしていましたが、いまはそれらを再生できるソフト・ハードをもっている方が少なく、いろいろと模索していた頃にスマート葬儀をご提案いただきました。
いま使用している機能では、特に供花受注の機能を重宝しています。以前は注文書を書いてもらい、それを電話で確認し、請求書や領収書を送り、と大変でした。郵送費・人件費を考えると、たとえクレジットカードの手数料を取られたとしてもトータルコストは削減できています。
また、供花を発注した方はスマート葬儀のアルバムページで会場の様子を確認できます。供花を出しても参列できない方は、これまでは確認ができませんでしたが、スマート葬儀であれば、供花を出しただけで終わりではなく、実際の様子を確認することで1つの心の区切りにもなると思いますのでありがたいサービスですね。
いまは、タブレットで見積りをとり、ボタン1つで発注、請求書を作成というところまでできないか検討してもらっています。これにより同じ住所やご葬家名を何回も書いたり、紙に書いてFAXで送るなどの手間がかからないよう、より簡便化が図れれば、今後、働き方も変わっていくのではないかと期待しています。
ただ、弊社の場合、営業エリアが1都3県と広く、式場や発注業者が多様なため商品ラインナップがとてつもない数になり、お客様とタブレットを見ながらプラン決定・見積り作成という作業がむずかしい。極端な話、お客様が直接選べるくらい簡単になれば、業務効率化・負担軽減・売上げ向上につながると思い、いまLDTさんにお願いしています。あとは外部のeコマースサイトとも連携できるといいですね。
白石 ご要望はしっかりと受け止めます。またスマート葬儀については近々リニューアルを予定していることもお伝えしておこうと思います。
「スマート葬儀」に対応できる社員は業界未経験者を中心に採用・育成
白石 御社は主体性をもって業務にあたっているスタッフが多い印象を受けますが、採用や社内教育など何か工夫されていることはありますか。
秋野 採用に関しては、礼節をわきまえお客様の前に出しても恥ずかしくない人を求めています。また面接では自分を着飾る人が多いのですが、何を聞いても正直に答えてくれる人がいいですね。何でも話してくれる実直な人のほうがお客様にも好印象に映るので、そういう人を採るようにしています。「業界の常識は、世間にとって非常識」という考えから、「知識はあるけど素人感」を大事にして、葬祭業は未経験で社会人経験がある人を中心に採用しており、葬祭業経験者で採用した社員は45人中2人だけです。
白石 業界外出身の秋野社長ならではの言葉で、おっしゃるとおりですよね。
秋野 業界に入った直後から、たとえば営業であれば、前職の不動産営業の経験から、「こんなの営業じゃない」「お客様が求めていることがもっとあるじゃないか」と感じることが多々ありました。それで、「葬儀屋になるのはやめよう、葬儀ができる人になろう」と決心して、いまに至ります。
教育でいうと、コロナ禍前は対面での研修もしていましたが、いまはさまざまな教材、特に動画がネットで簡単に入手できますから、業務が空いている時間を使って必ず1人当たり年間40時間は動画を見て学んでいます。全葬連さんの動画ラインナップも活用していますが、業界向けでないものが多いですね。
教育動画に限らず、私がいいなと思った業界外の「何で仕事をするのか」「こういう人生を送ってきました」的な動画やドキュメンタリーなど、多種多様な人の考えにふれてもらえるようにしています。年に数回の対面研修よりも、ネットを使って振り返りながら新しいことを勉強するほうが理に適っているのではないかと思いますね。
白石 なるほど、業界外からの目線がこの業界には必要だとあらためて考えさせられました。それでは最後に、今後の御社の戦略などお伺いできますと幸いです。
秋野 葬儀前の段階で、いかにお客様と接点をもつかということが課題だと考えています。
これは弊社が設立した一般社団法人の活動になりますが、事前に葬儀代金も払っていただき、お亡くなりになったときに葬儀・埋葬する契約があります。後見人や身元保証会社だと高額で縛られることも多い。実際には葬儀と埋葬だけが心配だという方がたくさんいらっしゃるので、まずはそこをクリアしようという試みです。
たとえば、ご夫妻のみの世帯でどちらかが亡くなれば、残されたほうの葬儀・埋葬をしてくれる人がいなくなる。火葬は自治体がやってくれますが、埋葬についての不安は残るのでニーズはとても大きいと感じます。弊社では、埼玉県所沢市に寺院と共同管理している墓地があり、非常に少額で納骨ができます。もう少し費用が出せる場合は、東京・新宿の寺院に協力していただいて、1人ひとりお名前を読み上げて合同供養ののち納骨してまいります。
また、別途費用が必要になりますが、日本有数の聖地である高野山に納骨できるプランもあります。納骨できるところまで準備している安心感は大きな強みです。葬儀前の分野に進出してお客様との事前の接点をふやし、「セレモニーさんがいてくれたから終活で悩まないで済んだ」と言われるようにしたいと思っています。
白石 なるほど。そういった事前のコンタクト戦略がこれから重要になっていくのだと思いますね。本日はありがとうございました。
秋野 ありがとうございました。
参考URL:
株式会社セレモニー
◆この記事の監修者プロフィール
LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。