「葬儀後の不動産マーケット」は有力市場
葬儀件数の5%成約目指しアプローチ

【葬儀DX対談】花原浩二 (株)MARKS代表取締役×白石和也LDT(株)代表取締役

※この記事は月刊フューネラルビジネス2022年9月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。

今回は、不動産サポート事業を展開する(株)MARKSの代表取締役社長・花原浩二氏を招き、葬儀後に発生する不動産の処分に関し、葬祭事業者が不動産事業に取り組むメリットや具体的な流れなどについて伺った。

葬儀後の不動産マーケットは「葬儀件数×80%」の規模

白石 まずは、貴社の概要・サービスについてお聞かせください。

花原 MARKSが事業として動き出したのは5年半前です。「不動産の可能性を追求して世の中の困りごとを解決したい」という想いからつくった会社です。

最初にメディア露出したのが2019年4月、死亡事件や自殺、孤独死が発生した事故物件を所有して困っている人を助けたいという思いのもとはじめた「成仏不動産」事業でした。

1年半前から、その延長で「不動産の可能性を追求して葬祭業界の困りごとを解決したい」ということで、葬祭事業者の不動産事業進出のための支援「葬儀社様サポートサービス」を開始しました。

「少子高齢化やコロナ禍で葬儀単価が下落しているなかで、もう少し葬祭業界を盛り上げていけるのではないか」「不動産はエンディング業界の中心になるのではないか」そんな想いをもって取り組んでいます。

6月からは(株)アスカネットと業務提携し、スマートフォンを利用した訃報・香典サービス「tsunagoo」と相続相談に関する相談窓口を新設しました。

白石 葬儀後の不動産マーケットには私も可能性を感じているのですが、どれくらいの期待感・規模感があるとお考えですか。

花原 65歳以上に絞ると、全国平均で約80%の方が持ち家だといわれています。亡くなられた方の8割は不動産をもっている。大なり小なり不動産に関する困りごとを抱えた状態で亡くなられるのです。

そこには売却だけではなく、不動産を貸し出す、管理する、もしくは誰かに受け継いでもらうというニーズが発生します。ですからマックスでいうと「葬儀件数×80%」の方はお客様になり得る、それが葬儀後の不動産マーケットの潜在的規模になると思います。

白石 なるほど、80%となるとちょっと驚いてしまう数値になりますが、もう少し深掘りすると、葬儀後の不動産について、具体的にどういったニーズがあるのでしょうか。

花原 まず、私たちが強みとして取り組ませてもらっている売却について考えてみると、1つは住んでいた方が亡くなって空き家になった不動産、これはそのまま放置することはできないものですので、確実に不動産マーケットに出てくるでしょう。

もう1つは、時間軸が葬儀後に絞られるわけではないのですが、ご高齢のご夫妻のうち片方が亡くなって1人暮らしになった不動産です。

最初お1人で住まわれていても、1人では不安なので子どもの家に同居とか、孤独死の予防や健康上の理由で施設に入るというと転居・不動産処分というニーズが出てきます。いま、空き家率は国内全体で15%程度ですが、将来的にはこうしたニーズはますます高くなるでしょう。

白石 なるほど。マーケットに出てくる不動産の単価について、都内であればどのくらいで、地方都市であればどのくらい、というのがわかるとイメージが湧きやすいのですが。

花原 都内の不動産ですと、平均で2,500万円くらいが目安かなと思っています。面積が大きい、もしくは便利な場所なら億単位となりますし、そうでなければ都内でも数百万単位の不動産というのもあります。

地方都市だと平均して1,000万円から1,200万円というイメージじゃないかと思っています。

白石 これからもお亡くなりになる方の数がふえて、なおかつ人口が減っていき、不動産の件数はどんどんふえていくというマーケットだと思いますが、そのなかで、葬儀のアフターで適切なアプローチをした場合、葬儀の件数に対して何%くらい受注していれば適正値だと思われますか。

花原 初年度と次年度によっても変わるのですが、私たちの最終的な目標値は葬儀件数の3%です。取組み方によっては最大5%くらいになる可能性があると思います。

「不動産の受注をしっかり取りにいくよ」というスクラムを社員全員で組めば5%近くはいきますし、通常どおりなら2〜3%ほどだと思います。

白石 具体的な数字をありがとうございます。最大5%というのは説得力のある数値だと思います。実は私たちがコンサルティングをさせていただいている遺品整理会社さんで、年間数千件の遺品整理をやっている会社があるのですが、そこの不動産の受注率がちょうど3%なのです。

遺品整理の段階でセールスしても3%が成立しているので、遺品整理の前段階の葬儀で適切なアプローチをとれば5%を目指せるのではないかと私も考えております。

ただ、業界全体を見渡すとなかなか積極的なアプローチができていなくて、1%受注できているところが約7,000社中10社ないくらい。だからこそ可能性があると思っているのですが、先ほど「スクラムを組む」とおっしゃいましたが、具体的にはどのようなアプローチ策があるのでしょうか。

花原 最も確率が高いのは、葬儀社の担当者様が直接ご遺族に不動産の話をお声がけするケースでしょう。ご遺族様の立場で考えると顔の見えない不動産屋にはなかなか心を開いて相談できません。

しかし、しっかりとした葬儀を行ない、信頼を得ている葬儀社の担当者様であればいろいろな相談をしやすい関係になっておられます。その担当者様がしっかりと説明をしていくと、これが約5%に上げることができます。

アンケートなどをベースに、「これは空き家になるな」ということがわかる対象をピックアップしながら不動産会社としてアクションをかけていくと、3%。逆に先方がコールセンターにかけてくるなど、ほとんど関与のない状態からだと1%いくかいかないかになってくるかなと思いますね。

白石 それでは、都内で月100件、年間1,200件くらい葬儀施行をしている葬儀社さんがあったとして、できる範囲で御社とアライアンスを組んで適切なアプローチをしたとしたら、年間で何件くらい受注できてどれくらいの収益になると考えられますか。

花原 場所にもよりますが、年間1,200件のうち3%はとっていきたいところですので、35件くらいですか。仲介と買い取りの比率が7:3だとして、たいへん大まかな計算になりますが、年間35件の受注で約2,000万円を純粋なフィーとして葬儀社さんにお渡しできるのではないかと考えます。

白石 それは大きいですね。現状都内ですと葬儀単価が平均70万円くらいに下がっています。
それで1,200件施行したとして年間売上げが約8億4,000万円、1億ちょっとくらいの利益になるかと思います。その状況で別途2,000万円の利益が上がるというのは非常に大きいことですね。

葬祭関連ビジネスは「人生そのもの」が対象

白石 不動産に興味をもたれている葬祭事業者さんは多いと思うのですが、なかなか取り組めない、ネックになっている部分がありますよね。

花原 いちばんネックになっているのは、「いままでうまく流れていたところに1つ手間がふえることで、何かトラブルが起きないか」「それをきっかけにお客様に対して不満を与えないか」という感覚的なハードルではないでしょうか。

もう1つは、昔からおつきあいしてきた士業の先生との関係性、そこが切れないということがあるのかもしれません。

白石 それでは、「不動産をやりたい」「不動産で利益を上げたい」と決意したときに、何からはじめたらいいでしょう。

花原 私たちが提供している「葬儀社様サポートサービス」では、2つのステップがあると考えています。

1つは、マーケットをしっかりみたいということがありますね。葬儀社さんによって顧客層が違いますし、ほんの少しのエリアの違いで不動産評価額も全然違う。葬儀社さんごとにメリットの差がどうしても出てくるのです。

もう1つは、その葬儀社さんの顧客満足度が上がっていることです。葬儀後のお客様が葬儀社さんに感謝しているような状況、アフターフォローも含めてしっかりできているような状況があるかないかで決定率も変わりますから。

まずは、人件費をかけずにスロースタートをお勧めします。「葬儀社様サポートサービス」ではしっかりとしたマーケット調査を行ない、どのような反応・結果になったかは随時報告しますから、それで1歩目のテストスタートをして、可能性がみえてから社内の仕組みを切り替えるといった次の段階に進む方法です。まず必要なのは、この1歩を踏み出すかどうかですね。

白石 「葬儀社様サポートサービス」を導入されている葬儀社さんのうち、伸びているところの特徴のようなものはありますか。

花原 ある葬儀社さんは弊社の朝礼に参加されたり、営業社員に同行して実際に査定をしている現場を体験されたりしています。リアルな不動産の感覚や査定の空気感がわかるようになるので、そこは受注率も本当に高いです。

白石 その同行、うちの営業担当にもさせたいというか、私もぜひ行ってみたいです。

花原 別の葬儀社さんでは、トップの鶴の一声で不動産事業をスタートしたものの、最初は社員さんの反応がかなりネガティブでした。考えてみれば「いままでにやっていないことをする」のは結構なストレスですよね。

でも、結果が出はじめると社員さんもしだいにポジティブになっていくものです。成功体験をするたびによくなってくる。やはり経営者が決断をして、指示することができれば会社は変わっていきます。「いままでにやっていないこと」もやっているうちに慣れてきますし、成果が出れば流れができてくると思います。

白石 葬儀社さんのビジネスモデルは、葬儀に関する総合サービス業から、死後手続きなどを含めたライフエンディングのトータルサポートを行なうハブ的機能が求められる時期に来ていると思うのですが、そこでネックになるのが、その「いままでにやっていないことはやりたくない」ですよね。

花原 そうですね。その意味で、白石社長がやられている葬儀のDX化というのは重要だと考えます。葬祭関連のビジネスにはさまざまなものがあるものの、普段の業務をしているなかで葬儀社さんが全部を取りにいくのはむずかしいと思うのです。そこでDX化で、周辺サービスを簡単に仕組み化していって、ビジネスを切り替えていくことは絶対に必要だと思います。

白石 ありがとうございます。貴社としてはこれからどんなところに事業を派生させていくのか、お聞かせください。

花原 極論すると、人が生まれてから亡くなるまでを1ターム目だとすると、2ターム目がはじまるのが葬儀でしょう。

これは葬儀というサービスがエンディング業界の入口という意味合いももちろんありますし、「葬儀後は次の葬儀の前である」と考えれば生前対策も当然エンディング業界になってきます。

そう考えたうえで、私たちが不動産以外のどこに事業を派生させ得るのかというと、実は全部なんじゃないかと。人生そのものが対象であると思いますね。

たとえば「葬儀後の不動産を買い取ります・売却しました」というビジネスを私たちはしているわけですが、そこには、買った人に対する引っ越し、保険、住宅ローンの取次、家具・調度品の手配といったサービスがつくれるのです。人にモノを売るということは、そこにサービスの機会が発生することになります。

不動産だけではなく、人が入れ替わる、住む場所・住む人が変わるかもしれない、活躍する人が変わるかもしれない、一度にその機会は発生しますから、極端な話、衣・食・住すべてのサービスがエンディング業界のまわりにある。ですから、エンディング周辺事業として全業種まで枠を広げることは可能だと思っています。人生そのものですから。

白石 おそらく葬儀社さんでは気づきにくい部分でしょう。

花原 葬儀の前や葬儀後のちょうど真ん中にいるのが葬儀社なので、そこを中心としたサービスをつくっていったら全部いけると思います。

白石 とても面白いというかワクワクしますね。本日はありがとうございました。

花原 こちらこそ、ありがとうございました。

参考URL:

(株)MARKS

https://marks-house.jp/

◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。