リーガルサービスとの連携は葬祭事業者、ご遺族双方にメリット大

【葬儀DX対談】黒田泰(株)オーシャン 代表取締役×白石和也LDT(株)代表取締役

※この記事は月刊フューネラルビジネス2022年10月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。

今回は、国内有数の相続業務を受託する傍ら、葬儀後の遺族を対象に相続手続きなどのリーガルサービスを提供する㈱オーシャンの代表取締役社長である黒田泰氏を招き、エンディング産業におけるリーガルサービスの提供と今後の可能性について伺った。

グループとして相続・遺言分野のリーガル・プラットフォームを展開

白石 オーシャングループ様のなかでも、特に㈱オーシャン様が取り組んでいる葬祭事業を対象としたリーガルサービスについてお聞きしたいのですが。

黒田 私たちオーシャングループは、専門コールセンターで葬儀社様と行政書士・司法書士をマッチングするリーガル・プラットフォーム事業をはじめ、行政書士・司法書士・税理士向けに相続手続きや相続税関連業務のレクチャー、そして売上げアップのためのコンサルティング事業などを展開しています。相続手続きに関しては、年間で1,800件ほどを担当、これは国内では上から5~6番目の規模だと思います。

葬祭業界との接点は相続関連のアフターサポートですね。葬儀後のご遺族様にお電話をして、相続手続きのご案内だけではなく、住民票の世帯主の変更や、年金の手続きに何を持っていったらいいかなどを説明しつつ、ご遺族様に何か心配事があれば、全国に約300か所ある相続に強い行政書士や司法書士・税理士をマッチングさせる私たちのプラットフォームを案内し、行政書士・税理士の報酬の一定割合を葬儀社様にお戻ししています。

白石 近しい方が亡くなられた直後、グリーフ状態に陥っているなかでさまざまなところに問合せをして、さらに相続手続きの依頼先を探すというのは非常に酷な作業でしょう。それを葬儀社様から信頼できる依頼先を紹介してもらい、手続きをワンストップで完結できるというのはご遺族様にとって非常に大きなメリットだと思います。

葬儀社様としても、そうしたサービスを提供することで、ご遺族の方に喜んでいただけるだけでなく、収益もふやせる。単なる葬儀社から葬儀に関する総合サービス業に変わっていくきっかけになるのではないでしょうか。

黒田 そのとおりですね。これは葬祭業界に限らず、私どもの法律業界もそうですが、「単独サービス」ではなく、顧客から支持される「総合サービス業」というコンセプトが重要になりますよね。葬祭業界において、この点ではどんなことがこれからの重点取組みとなりますか。

白石 ひと言で言うと葬祭DXでしょう。就労人口が著しく減っていくなかで、葬儀件数はふえても、それを少人数で効率よく支え、サービスを提供していかなければならなくなる。葬儀社の経営環境は厳しくなっていくわけです。

そこでDX化、システム化を進め、業務効率も高めていき、サービスの幅も広げて、ライフステージの各段階でサービス提供のハブとなる「葬儀に関する総合サービス業」へとビジネスモデルを転換する必要があると思っています。

そのなかで、リーガルサービスの提供は非常に大きなポイントだと考えるのですが、オーシャングループとして今後どういった領域を強化していかれるのでしょうか。

黒田 まさに、いまお話しいただいたアフターの部分でのシステム化であったり、システムとの連携などについてはもっと追求していくべきだと思っています。

葬祭業は現場でのサービス業ですが、私たち行政書士・司法書士はデスクワークの業種なので、それぞれの業種の間の垣根は想像以上に高いのが実情です。そういう意味では、やはりシステム連携という形で情報の共有やサービスの連携が求められてくると考えます。

たとえば、葬儀社様が契約の段階で顧客情報を入力されたら、それをもとに金曜日のお通夜、土曜日に葬儀・告別式、日曜日を挟んで月曜日に私たちが架電をさせていただいて、その3日後から5日後に行政書士・司法書士が訪問して相続の無料相談をしてくるといったスムーズな連携です。テクノロジーを通じた滑らかな連携は、重要な取組みではないかと思っています。

葬儀1件当たり1万8,000~2万円のアフター売上げも可能

白石 葬儀社様の収益性という視点で伺います。たとえば、月に100件、年間1,200件の施行がある葬儀社で、都内であればどのくらいの相続案件の受注・収益が見込めるものですか。

黒田 葬儀社様の取組み方によって結果は大きく異なってきます。

1、2年前までは、「顧客名簿に対しての営業をしません」「単価を上げる、アップセールスをするような考えはありません」という葬儀社様がほとんどでした。それがこのコロナ禍で葬儀単価が下がり、いっせいに取り組み出した感がありますね。

取り組みはじめたものの、現場の施行担当者がアフターで相続手続きを案内できるかというとなかなかできないものです。

100件施行していても、2~3件しか動かない。動かないところは0か1という状況です。片や積極的に本腰を入れて取り組んでいる葬儀社様は、都内であれば100件中15~20件ぐらい成約しています。

私どもで担当させていただいていて、最も成果を上げている葬儀社様の場合、葬儀1件当たりのアフター売上げは粗利・手数料ベースで1万8,000~2万円という驚愕の数字になります。

つまり、100件の施行で180万~200万円となります。一方、郊外の葬儀社様では1件当たりのアフター売上げは1,000~2,000円、100件の施行で10万~20万円となります。

これを私たちがサポートして、名簿をいただいたうえで葬儀後2、3日以内に葬儀社様の社名で全件架電していくと、都内だと100件中20~25%のアポイントが取れます。

そのうち、50~60%が受注につながりますので、葬儀施行数に対して10~15%の受注。都内だと行政書士・司法書士にかかる費用の平均単価が30万~35万円くらいになりますので、葬儀社様にお戻しする手数料は10%ないし20%として1件当たり3万円から6万円。月に10~15件の受注で手数料3万円とすると、月にして30万~45万円、年間では360万~540万円が手数料として見込めます。

これは相続手続きの手数料だけの話で、都内だとさらに税務申告があるんですね。申告の手数料がこれと同等にありますので、それも含めると年間でおおよそ720万~1,080万円の手数料になります。

何となく、お客様から言われたら紹介するというやり方の葬儀社様では、まったく案件化できないので、月に0か1件。その規模感では行政書士からの手数料も低く、年間で10万円発生するかどうかでしょう。それでは「ばかばかしくてやっていられないよね」ということになると思いますね。

白石 お話を聞いて非常にもったいないと思います。さまざまな葬儀社様を見ていますが、相続・不動産売買はまだまだできていないという葬儀社様が多いと思います。

今後、葬儀社様がそうしたことをやるうえで、いちばん変革しないといけないポイントは何でしょう。

黒田 ビジネス環境が変わっているということを理解しないといけないと思います。

まず、「いままではこうだった」「こうでなくてはいけない」という既成概念を取り払うべきです。

法律業界では、相続に関する相談を受けている最中に不動産査定のご案内をするのは法律家としてどうなのかという議論があるんですね。

しかし、私たちがご案内しなくても、不動産の名義変更から1、2週間経つと、お客様のもとに数多くの不動産業者からDMが来る。それだったら相談を受けた自分たち法律家が不動産会社と連携したほうが、お客様も便利で安心だよねという考え方に変わりつつあります。

葬祭業界に置き換えると、葬儀社様が相続のご案内をしなかったとしても、結局、一定の期間が過ぎるとご遺族様のもとには銀行や保険会社が「どうですか」と行政書士・司法書士を連れてやって来る。それなら、葬儀をとおしてご遺族様に親身に寄り添ってきた葬儀社様から紹介いただいたほうが、ご遺族様にとっても便利で安心なはずです。

白石 おっしゃるとおりで、いままでの業務の積み重ねや経験といったものはとても大事ですが、それが「いままではこうだった」「こうでなくてはいけない」になって、変化への対応の足かせになってしまってはもったいないですね。

黒田 “葬儀社様とご遺族様の接点”こそが価値ですから、顧客サービスの視野を広げていくことで、今後の葬祭業界のビジネスモデルは大きく変化していくのではないかと思います。

介護業界にも必要とされるリーガルサービス

白石 ここで黒田さんの紹介をもう少し掘り下げたいのですが、私の認識では前職の一部上場のコンサルティング会社で士業コンサルの国内ナンバーワンになり、いまは葬儀社様向けにセールスしている相続コンサル、相続手続き代行の教科書をつくった方だというイメージなのですが。

黒田 前職でやっていた弁護士・司法書士・税理士といった士業向けのコンサルティング事業のなかで、相続専門部署の立ち上げを担当したのがルーツですね。

2008年頃から相続、11年くらいから葬儀供養の生前契約、14年頃から葬儀社様との連携を毎年発信しつづけてきました。葬祭業界の方々の取組みを素直に学びながら、私自身がやってきた専門的な電話対応や面談の仕方などを融合させてつくってきた、というところがいまのリーガル・プラットフォーム事業につながっています。

白石 そこが非常に重要ですね。やはりマーケットは常に変化するので、それに伴ってお客様への最適なアプローチ方法やタイミングも変化する。それに対応するにはイチから積み上げた原理原則が大事なので、そういった意味でオーシャングループさんは今後も受注率を高めるためのノウハウを葬祭業界に提供できるのではないかなと思います。

黒田 コントロールできるところとできないところが当然ありますが、葬儀社様からお客様の情報をいただいたうえで、私たちとパートナーである行政書士・司法書士などが面談の仕方を工夫する、訪問時の接客を工夫して客単価を上げるなどはいかようにもできると思っております。

私も接客の仕方とか提案の仕方、どうやったら受注率が高くなるのか、お客様が安心してご依頼いただけるのかをずっと研究してきて、全国の行政書士・司法書士をコンサルしてきた10年間の実績があります。おかげさまで私どものグループの行政書士法人は、日本一受注率が高いと言われているのですが、そういう意味では、アポ率、受注率についてはかなり自信があります。

白石 今後、葬祭業界向けに提供していくサービスというと、何がありますか。

黒田 「らくしご(らくらく死後事務委任契約)」というサービスがあります。

葬祭業界からだとわかりづらいかもしれませんが、介護業界では「葬儀の手配はどうしよう」「お部屋の片づけはどうしよう」と心配される独居高齢者への対応が潜在的な課題になっています。

そうしたニーズを受け、独居高齢者を対象に、葬儀・供養・家財整理などのサポートをパッケージ化しました。介護事業者からは「直葬で」というニーズがあるので、コンパクトなパッケージになっていますが、これが葬祭業界に展開され、葬儀社様が独居高齢者に丁寧にご案内すれば、家族葬などの生前獲得につながるでしょう。

説明用の動画(下記の(株)オーシャン会社概要のQRコード参照)もつくりました。介護事業者や葬儀社様ができるだけ簡便に、かつナイーブなところをできるだけ丁寧にご案内をして納得していただけるようにと考えております。

白石 確実に世の中に必要とされるサービスだということが認識できました。

黒田 私どもは「お役に立つ」ということを大事にしております。たとえば、架電してアポにつながらない方もそこでおしまいというわけではありません。

除籍謄本や年金の停止、遺族年金といったご案内は電話口で5分、10分でできるのです。それに対し、ご遺族様から「丁寧に電話をもらって、こういうことを教えていただいてよかったわ」というフィードバックがもらえたら、葬儀社様にとってクチコミにもつながるでしょう。

そうしたことを丁寧にしっかりとやりながら、収益化できるところはそうさせていただく、そんなところではないかなと思いますね。

白石 おっしゃるとおりですね。継続してビジネスを行なうには、エンドユーザーにも喜んでいただいて、葬儀社様にも喜んでいただいて、かつサービス提供するオーシャングループ様も継続した収益の上がるモデルを構築しないといけないので。やはり三方良しのようなモデルをつくることが重要だと改めて認識しました。本日はありがとうございました。

黒田 こちらこそ、ありがとうございました。

参考URL:

OCEAN GROUP株式会社

https://www.ocean.jpn.com/

◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。