親和性高い葬祭業界のM&A今後5年で市場活性化へ

【葬儀DX対談】龍石泰樹 (株)日本M&Aセンター 葬儀領域担当×榊原啓士 (株)日本M&Aセンター 部長×白石和也 LDT(株)代表取締役

※この記事は月刊フューネラルビジネス2022年12月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。

今回は、視点を変え、累計7,000件超のM&A取扱い実績をもち、M&A・事業承継の成約数トップを誇る(株)日本M&Aセンターにおいて社内ステークホルダーとなる年間12件のM&A成約実績をもつエキスパート、同社業種特化事業部ダイレクトマーケティング部部長の榊原啓士氏と、同部署で葬儀領域を担当している龍石泰樹氏をゲストに迎え、葬祭業界における企業M&Aをテーマに鼎談(ていだん)形式でお話を伺った。

事業環境が変わるなかふえていく合従連衡型のM&A

白石 まず、御社の事業内容などについてお話いただきたいと思います。

榊原 日本M&Aセンターは、今年で創業31年目を迎える会社です。創業の頃はM&A、企業の合併・買収というと「ハゲタカ」「乗っ取り」「身売り」といったマイナスイメージの強い手法でした。

創業者で現会長の分林保弘がかつてイタリアに本社おく大手コンピュータ製造・販売会社の日本法人で税理士向けに相続税計算ソフトの販売をしていたときに、「個人の相続も大切だが、法人の『相続』、つまり後継者のいない、事業承継が危うい会社をサポートすることも急務だ」と思い立ち、税理士の人たちから出資を募ってM&Aの仲立ちをする当社を創業したという経緯があります。

現在も事業承継型のM&Aが当社のメインビジネスになっており、業種を問わず年間1,000件ほどのM&Aを成約させていますが、その多くはしっかり黒字を出しているものの後継者がいなくて存続の危機に陥った会社を、しっかりとした中堅企業様や上場会社様に譲り受けてもらうというケースです。

白石 御社の分林会長にはいつもお世話になっており懇意にさせていただいていますが、創業の動機である「日本経済の衰退を防ぐにはM&Aで事業承継を推進するしかない」という言葉を聞いてたいへん感銘を受けました。

龍石 ありがとうございます。日本には約300万社の中小企業があり、そのうちおよそ127万社で後継者が決まっておらず、潜在的な事業承継の危機を抱えています。それらの会社さんを救うのがわれわれの使命です。

白石 御社には買い手としてLETもM&Aの相談に乗ってもらっています。いまの葬祭業界にはM&Aの必要性があり、親和性も高いと思うのですが、M&Aが浸透するには課題も多いというのが私の考えです。

まず、2040年に死亡数が1.2倍にふえる一方、就労人口が3分の2に減るという今後の高齢多死社会において、業務量が1.2倍になるにもかかわらず、特に中小葬儀社では人材採用もままならずオペレーションを回す人数が約半分になるという時代が到来します。

生き残っていくためにはDX化、つまりシステム化、オペレーションの最適化が必須ですが、これも90%以上の葬儀社が年商1億円未満で家族経営に近い運営体制であり、業務を体系化・組織化できていないために労務などの問題を抱えている中小葬儀社の現実を見ると自社で行なうのはむずかしいでしょう。

自社でDX化できないのであれば、M&Aで大手または大手になるであろう企業と統合し、その資本力をもってオペレーションの最適化、人員採用を進めていかないと生き残っていけないと考えます。

大手の傘下に入ることにより人員配置の効率化、購買の効率化などにより収益率も上がる、さらに上場することにより採用が有利になる、その意味で葬祭業界におけるM&Aの必要性・親和性は高いのですが、一方で葬祭業界にはM&Aに慣れているプレーヤーが少ないという課題があります。経験がないので、売却のタイミングやM&Aのために労務や現金の面で整えておく必要があるものなどのノウハウが不足していると思うのですが、いかがでしょうか。

龍石 おっしゃるとおりだと思います。過去5年の実績を見ると、葬祭業界のM&Aはふえてきてはいますが、一方でM&Aのイメージは「ハゲタカ」「乗っ取り」「身売り」といった旧態依然のものにとどまっている印象があります。

とはいえ、死亡数が年々上昇するなかで、当社の言う「業界再編」をはじめとして、より合従連衡型のM&Aがふえ、小規模の事業者様が大手資本の傘下に入っていくという構図は今後もふえていくだろうというのが当社の考えです。

榊原 M&Aが活性化しやすいのは、何らかの法改正や業界の環境が大きく変化したときです。

葬祭事業は、いままでは高齢者がふえ、亡くなる方も多かったので比較的、企業努力をせずともある程度売上げを維持できました。しかし、コロナ禍が1つの転換点になったのではないかと思っています。

葬儀規模の縮小、IT活用によるオンライン会葬の登場などに家族経営に近い葬儀社は対応できないからです。当社はいろいろな業界をみていますが、家族経営が多かった調剤薬局の業界が似ているのかなと感じます。

調剤薬局は薬剤師の確保ができないと存続できない業界で、薬事法が改正されたときにM&Aが活性化したのと同様に、今回のコロナ禍が葬祭業界でのM&A活性化のきっかけになるのではないでしょうか。

また、料金体系がブラックボックス化していたなかで、透明性の確保を図ろうという大手や中堅葬儀社がふえてきています。その意味でも業界環境は大きく変わっており、これもまたM&A活性化のきっかけになり得ます。

事業承継・再生・成長戦略型を問わずベストプラクティスなM&Aをマッチング

白石 御社の葬儀・周辺領域におけるM&A実績はどれくらいあるのですか。

龍石 年間2、3件とこれからという感じです。

榊原 まだ葬祭業界では成功事例として打ち出せるものがそれほどないので、少しずつ件数を重ね、ポジティブなイメージを醸成していきたいと考えています。

地域性などでオペレーションに若干の違いはあれど、基本的な仕組みは大きく変わらないビジネスモデルですからM&Aはしやすい業界だと思います。

龍石 最も多いケースは後継者不在によるもの、次いで葬儀規模の縮小・単価の下落による経営状況悪化を何とかしたい、といったところでしょうか。

また、エリア補完やドミナント戦略を動機としたM&A、たとえばあるエリアで知名度が高い葬儀社をトータルで支援できる企業が譲り受けるという構図もみられます。

榊原 再生案件もありますが、赤字で立ち行かないケースだとバリューがつかず、買い手はその商圏だけを買うというように、売り手さんにとってはあまりいい結果にならないですね。それでもオーナーが債務保証をしている中小企業の場合、債務保証を買い手側に移せますのでオーナーが自己破産を免れるということがあり、これもM&Aの大きなメリットです。

白石 買い手側として考えると、LETとしては数字がいい会社よりは改善の余地があるところが魅力的ですね。自社でシステムを入れてオペレーションを回すと改善できるというのがわかっているので……。

あとは出店の余地があるエリアです。ドミナント展開をしたり、人員配置の効率化ができますからね。ところで、葬祭業界と御社の事業が連携することで生まれるメリットについてはいかがですか。

榊原 当社のメインビジネスは事業承継型のM&Aですから、後継者のいない葬儀社さんをしっかりと支援できます。成長戦略型のM&Aもふえていまして、たとえばLETさんのように新たなビジネスモデルを立ち上げて会社を大きくしていくなかで、新規事業を開発するぶんの時間をM&Aという手法で買って、スケールアップをスピーディに行なうこともできます。

また、われわれは全国に幅広くネットワークをもっており、各地域での成功事例を共有しながら、ベストプラクティスなM&Aのお相手を探せるといったところがメリットでしょう。

白石 御社の素晴らしいところの1つが、全国の金融機関さんとのネットワークが充実していて、プラットフォーマーとしてのマッチング力を十全に発揮していることです。

龍石 そうですね。いま、いくつかの大手金融機関様をはじめとして、地方の金融機関様の約9割がわれわれと提携を結んでいます。地方の金融機関様のM&A業務では、地域を跨いでお相手を探すのはむずかしく、われわれを活用していただくというのは全国マッチングのうえでは非常に有効だと考えます。

榊原 あと、「理事会員」という形で当社と提携している会計事務所さんも今年1,000事務所を超えました。特に一代で創業されたオーナー企業では、創業時から同じ会計事務所・税理士にお世話になっている場合がほとんどで、そういう方々との連携でM&Aをやらせていただくというのが非常に多くなっております。

ある意味、当社は日本のM&Aのポータルになりつつあると思います。業種問わず7,000件超のM&A事例がありますので、さまざまな状況で起こり得るトラブルや注意点がノウハウとして蓄積されています。その点、安心してお任せいただけるのではないかと自負しております。

白石 素晴らしいですね。よく理解できました。

M&Aは「身売り」ではなく経営の選択肢の1つ

榊原 葬祭関連のM&Aは、1つきっかけをつかみさえすれば、一気に広がると思います。

課題としては買い手側、たくさん買ってくれる会社が現われるかどうかですね。現状、葬祭業界は買う側も保守的で、どんどん買っていこうという感じはなく、リージョナル(地域性)の壁が高い業界だと感じています。

しかし、この5年くらいで転換点がくるでしょう。2040年をピークに死亡数は減っていきます。そこまでにある程度力をつけておかないと生き残れません。その時点で事業を売ろうとしても、足元を見られて売り手にとって不利な形となってしまいます。ドラッグストア業界がいい例で、一時期はM&Aが活発でしたが、寡占化(かせんか)が進んだいまとなっては小規模のドラッグストアはほとんどバリューがない、値がつかない状態に陥っています。

白石 今後M&Aが広がる可能性をもつ葬祭業界、そのプレーヤーとして必要なことは何でしょうか。また、どんな準備をしていればM&Aがスムーズにできるのか、ポイントはありますか。

榊原 業種に限らず、労務や税務などの法令対応、コンプライアンス違反がないことですね。買い手側もそこに手をかけなくていいというはリスクの低減になり、投資しやすくなります。

特に上場企業の場合、グループ会社でブラックな事案があればすぐに炎上するので、コンプライアンスを気にします。

また、オーナー企業にありがちな問題が個人と会社との切り分けです。昔ながらのオーナー企業ですと、会社で事業に関係のない不動産や高級車を所有していたり、私的経費を使っていたりなどの問題があることが多く、そういうケースはやはり買い手に敬遠されます。

もう1つ大事なのは、社長依存度をあまり高くしないことでしょう。中小企業では社長がいないと会社が回らない状態になってしまうケースが往々にしてあります。いまのうちに社長依存度をできる限り低くする仕組みをつくられるべきではないかと思います。

龍石 先ほどのメリットの話にも通じるのですが、強みというか、その会社さんの得意としていることが定義できると大きな助けになります。

たとえば、家族葬に特化していた葬儀社さんが、譲り受けを希望する企業さんと一緒に一般葬もやっていくとか、キャパシティの問題で10人から50人は対応可能だが200人の要望が来たとき対応できないという葬儀社さんが、大規模会館中心のお相手とやっていくとか、譲り受け企業さんと補完しあえるからです。

榊原 やはり、事業のボトルネックを一緒になる企業と解決していくというのがもう1つのM&Aのメリットですから、自社の強みと弱みを把握されていることは大事でしょう。弱みが組み合わさるというか、得意分野がずれていたほうが補完性は高く、売り手・買い手ともにwin-winの関係になりやすいのです。

白石 なるほど。よくわかりました。最後に葬祭業界の事業者様にメッセージをお願いします。

榊原 M&Aは「ちょっと早いかな」と思ったときがベストタイミングです。

というのも、検討をはじめてから当社と契約をして相手探しを開始すると、最短でも1年はかかります。通常2、3年かかりますので、ご相談は早いうちにされたほうがいいと思います。苦しくなってからのご相談では、選択肢が狭まってしまいます。

当社に相談したからといって、必ずM&Aをしなければならないわけではありません。ご相談内容によっては「自社単独でやったほうがいいですよ」とお勧めすることもありますし、それこそ白石さんにも「このM&Aはやめときましょう」と言ったこともあります。

白石 そうでした。結構ストレートに言ってくださるのでとても助かります。

榊原 会社の評価、いくらで譲渡できるか、どんな買い手が想定できるのかの分析についても無料でやっております。

M&Aは、決して非常時の「身売り」ではありません。M&Aはあくまで経営の選択肢の1つなのだと考えて、ぜひお早めにご相談いただければ幸いです。

白石 本日はありがとうございました。

榊原・龍石 ありがとうございました。

参考URL:

(株)日本M&Aセンター

https://www.nihon-ma.co.jp/

◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。