粉骨から散骨、手元供養品までワンストップで提供する海洋散骨事業
【葬儀DX対談】山田康平 (株)SPICE SERVE 代表取締役×白石和也 LDT (株) 代表取締役
※この記事は月刊フューネラルビジネス2023年1月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。
今回は「海洋記念葬シーセレモニー」の屋号で、粉骨から海洋散骨までをワンストップで提供する(株)SPICE SERVEの代表取締役、山田康平氏をお迎えし、葬儀のアフターにおける海洋散骨事業と、葬祭事業の連携、今後の可能性などについて話を伺った。
自然葬マーケットが拡大するなか高まる海洋散骨ニーズ
白石 まず、御社について、そしてシーセレモニーについてご紹介いただけますでしょうか。
山田 (株)SPICE SERVEは2009年4月に設立しました。
社名の由来は「人生が加速する機会(SPICE)」を「創造提供(SERVE)」していくというもので、「人生が加速する機会(時間・体験・仲間)の創造提供」という理念、「船からはじまるリゾート革命」というビジョン、そして「『場創り法人』スパイスサーブ」というコーポレートスローガンのもと、貸切クルージングをはじめ、船舶・水辺施設マネジメント、供養サポート事業、店舗運営、旅行業、ケータリング、イベント企画運営の7事業を展開しています。
事業の中核となっているのはクルージング、特にあらゆる記念日のための特別な場をつくるアニバーサリークルーズです。自社船を含む70隻近くの船舶を扱い、東京湾で1日約3本、年間約1,000本のチャータークルーズを運航してきました。5年前にスタートした海洋散骨事業「シーセレモニー」も、このアニバーサリークルーズから派生した事業です。
自社所有のクルーザーで東京・横浜エリア、パートナー船を活用して湘南、大阪、沖縄、ハワイで実施しているシーセレモニーの海洋散骨は、単に海にご遺骨を還す散骨ではなく、残されたご家族が忘れられない記念日になるようにと「海洋記念葬®」と名づけています。
シーセレモニーでは、この海洋記念葬や年忌法要クルーズを営むほか、自社に粉骨作業場を設け、ご遺骨の粉骨から散骨までをワンストップで行なうご遺骨供養サポート事業「とこしえ」も展開しています。
白石 海洋記念葬の特徴を教えてください。
山田 最も大きな特徴はファミリー散骨、つまり貸切散骨です。
他のお客様と一緒になる合同散骨ではなく、また陸地でお別れを済ませる代理散骨でもなく、ご遺族に乗船してもらい、故人様の旅立ちを見送っていただくプランをいちばんお勧めしています。
自社所有クルーザーと港区にある自社桟橋を主に使用しているので低価格での提供が可能となり、乗船人数は定員までであれば何人乗船しても料金は変わりません。また、もともとクルージング事業からの発展した事業ですから、飲食も自前でハイクオリティなものを提供できます。
そのため、最初は合同散骨の予定で相談に来られたお客様が貸切ファミリー散骨のほうが安価なことに驚き、プラン変更することも多くありますね。おそらく、貸切利用での海洋散骨の件数は国内の散骨事業者のなかで最も多いのではないかと自負しております。
白石 それほどユーザーに選ばれている理由は、何だと思いますか。
山田 まず、自社船舶・自社桟橋の使用による、ゆとりある海洋散骨ということがあります。船舶については、70隻近くの船舶から乗船人数や散骨海域、飲食の有無に合わせて最適なものを提案できます。ご家族のみ数人の乗船に適したクルーザーから社葬などの大規模葬に対応できる定員200人の船まで、選択肢は豊富です。
また、グループ会社で国内外の豪華客船クルーズを扱う(株)クルーズバケーションとの連携により、大型客船に乗船して地中海で散骨したいなどのニーズにも対応可能です。
桟橋については、東京エリアであれば、芝浦運河に面した運営店舗のテラスが自社桟橋となっており、そこから24時間出航することが可能です。都心部に位置しているので利便性が高く、設備もバリアフリー対応で、何よりプライバシーが守られ、ご遺族や会葬者がゆったりと集まれる場所になっています。やはり、パブリックな桟橋だと周囲の目が気になり、ゆっくりお別れの時間を過ごしづらいでしょうから。
白石 そのほかの理由も教えてください。
山田 次に、ご遺族に寄り添う専任のコンシェルジュの存在です。コンシェルジュはご依頼、打合せの段階から専属でご遺族に寄り添い、理想的な散骨プランを提案し、散骨当日も一緒に乗船し最後までご遺族をサポートします。
打合せは当社のショールームで行なうことが多いのですが、ご遺骨を引き取りにご遺族の家に訪問し、そこで打合せをする出張サービスもしており、好評をいただいています。
最後に、船会社として当然の安全・安心です。当社は旅客不定期航路事業許可と旅行業許可を所持しており、旅客船登録された自社とパートナーの船舶のみを適法に使用し、船舶免許保持者・航海士・機関士などの有資格者により運航しています。さらに「旅客保険」「旅行業保険」「事業活動包括保険」の3つの保険に加入しており、万が一のトラブルにも備えています。
白石 昨今、お墓の継承者がいなかったり、遠方への墓参りが困難だったりしてお墓を選択する人が減り、また墓じまいもふえてお墓以外の埋葬手法、つまり海洋散骨に代表される自然葬のニーズが高まっていると思います。
山田 それは強く感じますね。自然葬のマーケットは広がってきていて、いくつかある埋葬手法のなかでも海洋散骨は徐々に伸びてきていると思われます。
シーセレモニーの実績をみると、海洋散骨は累計約850件、直近の第5期では年間360件となっています。21年と22年を比較すると、コロナ禍にもかかわらずファミリー散骨は1.5倍程度の増加。墓をもたない、自然葬という選択肢が認知されてきたと感じています。
白石 私たちライフエンディングテクノロジーズが運営する葬儀の総合情報サイトでも、海洋散骨のアクセス数は伸びてきています。海洋散骨に関する問合せは月間で60~70件、有効問合せに対する受注率は15%程度になっています。受注率をもう少し高めたいところなのですが。
山田 海洋散骨については、私たちはある意味最終地点なので、ご相談に来られるお客様の6~7割は成約になりますね。
親和性の高い葬祭業と海洋散骨
白石 私は、葬祭業と海洋散骨の親和性は非常に高いと思っています。
というのは、現状、多くの葬儀社さんは今後の高齢多死社会、就労人口の減少に対応できるオペレーションになっておらず、家族経営に近い運営体制で業務の体系化・組織化ができていません。
業務のDX化、そしてアフターを軸にした収益モデルへの変更が求められていて、アフター売上げのコンテンツでは御社のやっている海洋散骨、墓じまい、手元供養などは重要なサービスとなり得ると考えるからです。
実際、葬儀社さんからの依頼はどれくらいあるのでしょうか。
山田 葬儀社さんからの紹介も徐々にふえていますが、まだまだ想定していた数にはなっていません。当社としても、ニーズがあれば葬儀社さんに同行してご遺族に海洋散骨について説明しているのですが。
海洋散骨は単価としては粉骨や手元供養品も含めて15万円から50万円くらいのケースが多く、葬儀の金額と比べると安い。葬儀社さんのマージンはその10~20%に設定しているので、収益面でメリットが感じられず送客しづらいのかなとも感じます。
白石 やはり、効果的な提案ができている葬儀社さんは少ないですね。仏壇やお墓なら担当者に紹介料のインセンティブが付くことが多いと聞きますが、遺品整理や相続手続き、不動産売却、そして散骨に関しては、担当者にインセンティブがつかないことが多い。
そのため、組織として動きづらいというのが課題だと私も思っていて、そのあたりの仕組みづくりができれば面白いですね。
山田 そのあたりをどうすればいいかは大きな課題ではあります。海洋散骨は確実にニーズが高まっておりますので、葬儀社さんとうまく連携できるといいですね。
分骨前提の海洋散骨の周知が必要 今後は遺骨サポート事業にも注力
白石 葬儀件数や死亡数に対する海洋散骨の割合はどれくらいなのでしょう。また、潜在的なニーズとしてはどれくらいありますか。
山田 実際は1%あればというところだと感じています。「感じています」と言うのは、総数についての明確なデータがないからです。
現在、海洋散骨についての団体は全国海洋散骨船協会と日本海洋散骨協会の2団体(いずれも東京都)があり、それぞれ会員のデータを集計していますが、実はほとんどの会員が積極的には散骨の件数を公表していないと感じています。ですから、ネットなどで公表されている件数よりも実数はもっとあるはずです。
白石 公表件数は明確に毎年ふえているので、潜在的ニーズはまだまだありそうですよね。海洋散骨を希望する人は10%ぐらいあってもおかしくないと思いますが。
山田 もっとあるかもしれません。何らかの理由で海洋散骨を選ばない、私たちに相談する前に踏みとどまってしまう人は多いと思います。
白石 亡くなられたご本人が望んでいても、ご遺族に抵抗があるとか、何らかの事情でやめてしまうケースは結構あるでしょうね。
山田 そうした層に向けてやらなければならないことは、「海洋散骨では遺骨をすべて撒かなければならない」というイメージの払拭だと思います。
全部撒いてしまうイメージをもつことは寂しさにつながりますから。私たちは、ご遺族に必ず「ご遺骨は分骨してください」「一部はお手元に残してください」とお声がけしています。
すべてのご遺骨を散骨するのではなく、一部のご遺骨を残してお墓や樹木葬墓地に埋葬したり、納骨堂に納骨したり、あるいはお手元で供養されることをお勧めするわけです。
直近約300件のご依頼では、約40%のご遺族が分骨されました。ご依頼以前に分骨されているケースも含めると、「ご遺骨をすべて撒かない」海洋散骨が半数を超えていると思います。こうした情報が広く認知いただければ、もう少し敷居が下がるのではないでしょうか。
白石 墓じまいとセットになるケースが相当あるのではないかと思うのですが。
山田 墓じまいの段階で相談に来られる方もふえていますね。パートナーの紹介で粉骨から海洋散骨まで依頼いただくこともふえています。
白石 墓じまいの相談が海洋散骨につながるのは、どれくらいの比率ですか。
山田 私たちに墓じまいの相談が持ち込まれる場合、海洋散骨を前提としているのがほとんどですから、ほぼ100%が海洋散骨になりますね。今後、墓じまいについて、人材面での強化を図っていきたいと思っているところです。
白石 今後、事業の発展形として考えておられることは何ですか。
山田 まず、安全・安心のサービス提供が大前提です。
シーセレモニーは、毎日1件は散骨を行なう状態まで発展してきました。会社として昼間は海洋散骨、夜はイベントクルージングと好調なサイクルで連動できており、クルーが育つ土台が固まってきた感があります。
これからはさらに船上での利便性、サービスを磨いていきたいと考えています。エリア的には湘南エリアを拡充し、さらに沖縄・ハワイにも自社船舶を展開したいですし、ニーズがあればアジア各国への展開も視野に入れています。
加えて、ご遺骨供養サポート事業に注力していきます。いままでは散骨を決めた方からしか受注がなかったのですが、この事業でご遺骨の窓口を押さえることができ、より早期に海洋散骨という選択肢を伝えられるようになります。そこでまた違ったニーズが発掘でき、葬儀社さんとの新たな連携の形も発見できるでしょう。
たとえば、いままでのご遺骨供養サポート事業では、半数ほどの方が代理散骨を望んでいることがわかりました。これはやってみないとわからないことです。
こうした新しいデータを蓄積したうえで、海洋散骨をより広く周知させるために何か仕掛けることを考えています。
ワンストップでのサービス提供を目指していますから、粉骨や手元供養品についても強化していきます。粉骨については、立会い希望の方がふえていることから作業場を移転・拡大し、打合せや待合いのための応接間を用意、さらに手元供養品のショールーム機能も付加します。
手元供養品については、アーティストとコラボして、「海」をテーマにしたオリジナル商品を開発しており、それを今後提供していきます。私たちはお客様に近い位置にいるので、お客様の姿を見ながら商品とサービスを拡充していくつもりです。いま、弊社は14年目。
「ニッチ市場でトップをとる」ということにこだわって取り組んできました。今後もこの市場で、健全にコツコツと会社を成長させていきたいと考えています。
白石 本日はありがとうございました。
山田 ありがとうございました。
参考URL:
(株)SPICE SERVE
◆この記事の監修者プロフィール
LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。