認知症による資産凍結を防ぐ家族信託 葬儀前サービスとして高ポテンシャル

【葬儀DX対談】三橋克仁 (株)ファミトラ 代表取締役CEO ×白石和也LDT (株)代表取締役

※この記事は月刊フューネラルビジネス2023年3月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。

今回は、アフター売上げからはいったん離れ、葬儀件数そのものをふやすために今後の葬祭事業者にとって重要なポイントとなる葬儀顧客の囲い込みにまで視野を広げてみよう。

葬儀顧客の囲い込みには、当然事前サービスの充実が欠かせない。そこで今回は、事前サービスとして有望な資産管理の手法である「家族信託」を手がける(株)ファミトラの代表取締役CEO三橋克仁氏をお迎えし、家族信託について、葬祭業界との親和性などについて伺った。

認知症になっても柔軟に資産管理・運用を実現する家族信託

白石 まず、ファミトラ様が取り組まれている事業に関してご紹介いただけますでしょうか。

三橋 私たちは、お客様の認知症による資産凍結の対策として、家族信託の組成をサポートする事業を展開しています。

いま、認知症になる方がふえています。軽度の方を含めると、発症される方は2030年には1,000万人にもなるといわれています。

認知症になると、判断能力がないとみなされ、契約ができなくなってしまうということがあります。認知症の疑いがある状態で契約した場合、相手方に指摘されると契約を反故にされてしまう可能性があるためです。典型的な例が不動産の売買です。自宅を売却して費用を捻出し、介護施設に入ろうとしても、家が売れないので子どもに負担がいく、その子どもの経済力で支えられない状況であれば介護難民になってしまうという悲劇も起こりえます。

仮に遺言に「財産は○○に任せる」と書いてあっても、遺言は亡くならないと効力が発動しませんから認知症の対策にはなりません。認知症になってから亡くなるまで平均7~8年といわれています。その間、家の売買ができない、現金が動かせないという状態が続くのです。

認知症になってからは、成年後見制度で対応するしかありません。これは、判断能力が低下した本人に代わって、財産管理や身上監護を家庭裁判所により選ばれた後見人に任せる制度ですが、多くの課題があります。

まず、後見人に親族が選ばれることは稀で、多くは面識もない弁護士などが選任されます。赤の他人に財産を任せるのは、それが弁護士であっても不安がつきまとうのは当たり前でしょう。

さらに、柔軟な財産管理ができなくなります。たとえば、ご高齢の方がお孫さんの教育資金を援助したいと思ったとしても、後見人が「それはあなた自身のためではありませんね」と出金を認めないといったことが起こります。

さらに、毎月の高額な後見費用も発生します。5,000万円程度の資産がある場合、月に約5万円ですから、認知症になってから亡くなるまでの平均7~8年で約420万~480万円かかります。一度選任された後見人は解任もできません。

そこで、成年後見制度に頼らない対策として私たちが着目したのが「家族信託」でした。

白石 その家族信託についてわかりやすく説明していただきたいのですが。

三橋 家族信託は、読んで字のごとく「家族に信じて託す」ことで、判断能力があるうちに大切な資産を信頼できるご家族に託すことにより、認知症などで判断能力が低下した後でも、ご本人やご家族のニーズに沿った資産の管理や運用を実現することを目的とした仕組みです。

これは管理だけを託すというのがポイントです。現金や不動産、株などを信託しても、管理権限が子どもに移るだけで、そこから発生する金利や賃貸収入、配当などは本人に残ったまま、つまり所有権は本人に残ったままとなるため、税務上は贈与ではなく、贈与税は発生しません。

管理する権利、預金を引き出したり、家を改築したり売却したりといった権利だけをリーガルに子どもに託すことができるのです。

認知症になる前に家族信託を組んでおくと、認知症になっても、何の問題もなく子どもが家を売って介護費用を捻出するなどの対応ができるわけです。

家族信託は、資産をもつご本人とご家族の間で「これを管理して」という信託契約を結ぶものです。私たちはご本人やご家族の希望をヒアリングしたうえで最適な家族信託組成プランを提案し、信託契約を締結するまでを総合的にサポートする「家族信託組成サポートサービス」と、信託契約締結後、私たちが信託監督人として信託の安定的な運営のお手伝いをする「信託監督人サービス」を展開しています。

白石 なるほど。では、どのような人が家族信託の対象になるのでしょうか。

三橋 実は家族信託は、これまで超富裕層しか手が出なかったレベルの仕組みでした。家族信託は自由度が高いがゆえに適切な設計・組成にはむずかしさがあり、豊富な知識・経験をもつ人材と相応の時間・費用が必要なのです。

私たちが事業を展開する以前の業界標準では、半年以上の期間と100万円以上の料金がかかっていました。ですから、家族信託組成サービスは億単位の資産を保有する方、銀行などでは30億円以上の資産を保有する方を対象にしていたのです。

私たちは、家族信託の組成には十分な潜在ニーズが見込めると考え、可能な限りDX化を推し進めました。ITで効率化していけば、低コストでサービス提供でき、資産総額3,000万円から1億円の層まで家族信託を広げることができます。この層だけで、資産総額1億円超え保有者に比べ約8倍の母数、560兆円規模の資産があるのです。

具体的には、家族構成や資産状況などを入力することで法務や税務、登記、不動産、保険、医療などさまざまな視点からみた家族信託組成についての論点を抽出し、ご本人やご家族の要望などからそれらを絞り込み、かつ整理したうえで提案書を出力することができるシステムを自社開発し、時間的・経済的コストを低減させました。

結果として、私たちと契約している方の資産の平均値は5,000万円程度です。従来の超富裕層を対象とした家族信託組成サービスに比べ、価格やサービスをカジュアルな形にすることによって、一般的なご自宅に住んでいる高齢の方に選んでいただけていると思います。

また、従来のサービスでは信託契約締結時のご本人の平均年齢は75歳弱なのに対して、私たちの場合は83歳と高めです。低価格のサービスを求め、かつ緊急度が高いユーザー層を獲得しているといえるでしょう。今後はこれをさらに若い年齢層に広めていく予定です。

白石 自社で家族信託の提案のためのシステムまで開発されているのですね。

三橋 はい。現在私たちのスタッフは業務委託や不動産の子会社も合わせて約50人いますが、そのうち12~13人は技術・開発系のメンバーです。

ITスタートアップ企業なら普通なのでしょうが、信託など資産管理を扱う会社としては異色でしょう。家族信託組成についての論点はよほど優れたコンサルでないと整理できないし、時間もコストもかかるもので、そこをDXするためには技術・開発部門が必要でした。

白石 契約の実績はどれくらいでしょうか。また、家族信託組成のときに葬儀のことまで考えておられるお客様はいますか。

三橋 私たちが家族信託の契約締結までサポートしたのは、いままでで200家族以上、合計の信託財産規模は100億円以上にのぼります。

そのなかで、葬儀社が決まっているというご家族はほとんどいらっしゃらないですね。葬儀社さんから見たら、ほぼほぼ手つかずの領域と考えて間違いないと思います。

葬祭業における家族信託を使った新たな囲い込みスキームの可能性

白石 家族信託については、これからの時代にマッチしていると同時に葬祭業界との親和性も高いと考えています。いまの葬祭業界は葬儀のみをいきなり取りにいこうとしても集客コストが合わず、事前の囲い込みをいかにうまくやれるかが課題です。

そこでこの家族信託を使って、既存にはない囲い込みスキームをつくれるところが勝てる、業界の先を見て勝ちにいけるプレーヤーとは親和性が高いと思います。

いま、葬儀社が約7,000社あるといわれていて、その多くが今後の高齢多死社会、亡くなる方の数が1.2倍になり、オペレーションを回す人数が約半分になるという状況に対応するオペレーションになっていません。

特に、全体の8割程度を占める従業員5人以下の家族経営的な葬儀社では、業務を体系化・組織化できておらず労務などの問題を抱えています。今後生き残るためにはDX化とそれに並行した収益モデルの変更が必要で、それができないのならM&Aでの大手または大手になるであろう企業への統合が望ましいという状況です。

この収益モデルの変更のなかに事前サービスの充実とそれによる囲い込みがあり、家族信託組成サービスは事前サービスとして有望だと思うのです。

三橋 先述した200家族以上のなかで、葬儀社を決めているご家族がほとんどいないという話もそうですが、葬祭業界との親和性は感じています。

さらにいうと、家族信託を組む方は、家族思いでインテリジェントのある、ある程度資産をもっている方なのです。ということは、生前に葬儀や墓石について考えておくタイプの性格の方が潜在的に多いと予測できるでしょう。

そういう意味でも親和性が高い。あとはタイミングの問題ですね。認知症になってから亡くなられるまで7~8年、認知症になる前でないと家族信託は組成できませんから、家族信託の組成からお客様が亡くなり葬儀を行なうまで、かなりの時間がかかります。

いまの200超のサンプルで10年程度、今後もう少し若い層にもアプローチしていくので、これは15年、20年と伸びていくと思います。葬儀が必要となるかなり前の段階でアプローチすることになり、「いまそこまで考えなくても」というお客様が多いでしょう。どのタイミングで仕掛けるか、時間軸との戦いになるのではないでしょうか。

白石 なるほど。とすると、葬儀社約7,000社のなかでは400社程度の年商5億円以上の層、かつ先進的なやり方を取り入れることができ、中長期で戦える事業者にこそ家族信託組成サービスはフィットしそうですね。

三橋 そう思います。私たちの現状としては、葬儀よりもうちょっと手前の保険・介護などの周辺領域との連携が中心となっていますが、中長期的には葬祭業界とも必ず絡んでいくと考えています。

白石 葬祭業界と御社の事業が連携することで生まれる最大のメリットは何でしょう。

三橋 葬儀社さんにとっては、優良な見込み顧客ですかね。家族信託の組成を通じて、私たちは他のビジネスよりずっと深い情報を得ることができます。資産構成なんて、自分の子どもにすら詳しく開示しないでしょう。そうした普通は表に出ない情報も含めたリストです。

葬儀社さんの出番は時間軸的にちょっと先になるので、私たちのほうから葬祭業界に積極的にアプローチはしていませんが、葬祭業界のほうから来てもらえれば前向きに連携を検討します。

たとえば、家族信託の顧客を対象にセミナーを共催して、ご本人やご家族に「葬儀ならここ」とアピールすることは可能でしょう。きわめて優良な顧客層に対する種まきが無償でできるという意味で、大きなメリットがあると思います。

白石 セミナーはいい考えかもしれませんね。御社とアライアンスを組めれば、既存の囲い込みではカバーできない部分を補完できるのではないかという可能性を感じます。

信託契約のなかで、「葬儀は○○葬儀社に」というところまでフィックスできればメリットがより大きくなります。

三橋 私たちは信託監督人という立場で、チェック役として契約当事者の間に入り、ニュートラルな立場でアドバイスするサービスも提供しています。ですから、ニュートラルな視点でメリットがあると思われることは提案していくことができます。

既存の信託契約書で「介護費用は実家を売却して賄う」という条項を設けた、つまり明確に受託者の義務とした例はありますから、「葬儀の場合はここ」「墓石はここで買う」と指定できるかどうか、法的に検討する価値は十分にあると思います。

白石 よくわかりました。最後になりますが、御社の今後の展望についてお聞かせください。

三橋 自社開発した弊社のシステムは、家族信託コンサルタントの脳みそ部分をITで再現しています。

家族信託を本気でつくり込もうとしたときに必要なさまざまな知見を結集し、条件にあった手法の提示をシステムで再現しているのが最大の特徴です。テクニカルタームの多い家族信託の組成は、システムであっても、そのままではユーザーに任せることができません。

この問題の解消が今後の課題です。家族信託の社会的認知度はまだまだ低く、私たちは、家族信託というサービスが終活のスタンダードになれるよう事業を展開していきます。

白石 本日はありがとうございました。

参考URL:

(株)ファミトラ

https://www.famitra.jp/

◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。