家業から企業へ一新するデジタル化のプロセスを学ぶ

【葬儀DX対談】坂本英教 (有) ラストライフ 代表取締役×白石和也 LDT (株) 代表取締役

※この記事は月刊フューネラルビジネス2023年7月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。

今回は、業務DX化を推進し、業績を飛躍的に伸ばす(有) ラストライフ(本社大阪市城東区)の坂本英教社長とLDT・白石社長による対談。同社のデジタル化への取組みや葬祭業界の展望などについて語った。

業界外の視点持ち込み労働生産性を向上「町の葬儀屋」を大改革

白石 坂本社長はもともと不動産業を営んでいて、2017年10月にラストライフ様をM&Aで取得されました。M&Aのきっかけは何だったのでしょうか。また、M&Aをするまでのデジタル化の状況はどうでしたか。

坂本 不動産業界は人口の増減に比例して栄えたり廃れたりします。人口減の時代、不動産の下落局面は避けられないと感じ、M&Aによる別業種への参入を考えました。

葬祭業界への参入はたまたま知人から「葬儀社をやめたい人がいる」と紹介されたのがきっかけでした。それまで葬祭業界についてはまったくの無知でしたが、いざ社員の方々の仕事ぶりや現場を拝見し「何とためになる仕事なんだ」と感銘を受け、買収を決めたのです。

デジタル化に関しては、非常に遅れていました。何もかもが手書き処理のうえ、情報リテラシーも低く、何年も前の死亡届が保持されていて、情報漏洩の対策もない。情報伝達方法も電話かメーリングリストだったため、すぐにチャットシステムを導入しました。

M&A時点で4店舗を約12人で運営し、年間施行件数が約600件ですから、労働生産性は非常に低かったといえます。デジタル化の結果、現在はスタッフ8~9人で年間900件以上、月間80〜90件の葬儀に対応できるようになりました。

白石 全国的にも1人当たり月10件を回せるのはトップレベルですね。デジタル化した業務は具体的に何ですか。

坂本 まずチャットは「LINE WORKS」を導入し、全員がリアルタイムで情報共有しています。請求書・領収書に関しては、クラウド型の請求書発行システムを活用して一元管理で漏れがないようにしています。

白石 多くの葬儀社様から「在庫管理のデジタル化に困っている」と伺うのですが、御社はいかがですか。

坂本 現在6会館を運営していますが、会館ごとの棚卸に時間を要し、「在庫がない」という事態が発生しているのが実情です。LDT様で開発している、クラウドで一元管理できるシステムがあれば解決できると思っています。

白石 現実のオペレーションでいうと、取引業者が商品を置いていくだけで、そもそもシステムに入力する個数管理がなされていないというパターンが多いのですが。

坂本 結局、システムを導入しても、使うのは人ですからね。オペレーション教育は重要な課題で、われわれもかなり腐心して行なっている状態です。

白石 デジタル化を推進するにあたり、専任の担当者を置かれていますか。

坂本 デジタル担当スタッフを任命しているわけではありません。現場の方々と協力して、「こういうシステムを構築するのですが、やりやすいですか、やりにくいですか」と聞き取りをしながら進めているのが現状です。

葬祭業とデジタル化が縁遠いのは、宗教や慣習といった「古いこと」が正しいと思われている方が一定数おられるからです。そのため、「いままでうまくいっていたから、変える必要はない」と言う人が結構いますが、それでは労働生産性の部分で立ち遅れていくと私は考えていますので、「われわれは変わっていかないといけない」ということを切々と教育していくしかないわけです。

白石 今後、死亡者数はいまより9万人以上ふえ、働く人の数はいまの3分の2という時代が来るので、デジタル化以前にまず「本当に現状のオペレーションでやるべきなのか」「この葬儀件数を回すにはどういうオペレーションが必要か」と考えながらつくり上げていく必要があって、私たちはそれに対して最適なシステムを提供していくのがいいのかと思っています。

管理者は現場よりも「数値ありき」でモノを見ることが必須

白石 オペレーションについて詳細に把握されていますが、坂本社長が実際に現場に立つことはあるのですか。

坂本 まったくないです。私は自分自身が葬儀の細かいところを知っている必要はないと考えております。

私が重要視すべきは「従業員の労働環境を整えること」「お客様にどういったサービスを提供できるか」の2点です。あとはプロに任せておけばいいと思っています。

白石 私も近い考えで、「エンドユーザー目線で身内の葬儀を頼みたいと思うか」が大事だと思っています。現場には立たないということですが、現場とのコミュニケーションや数値管理は、どういう観点で把握していますか。

坂本 現場であったことについては、LINE WORKS上もしくは業務報告書で報告義務を課して管理しています。お客様の反応については、担当者からお客様にアンケートを渡し、回答が私に直接届くようにしています。

白石 伸びている会社の共通点として社長様がそうしたアンケートや日々の数値管理を直接見ておられますね。

坂本 数値ありきでモノを見ないと、と考えています。施行件数がふえるのは、死亡者数がふえている現状では当然の話。いかにそこでお客様に対し適切な価格のものを適切な数量だけお渡しできるのか、ということが大事で、そこの管理はしっかりさせてもらっています。

白石 おっしゃるように、22年の死亡者数は前年比で「6.2%」増加。それ以上の件数の伸びがなければ、ふえたぶんを競合に取られているということです。伸びている葬儀社様はそのあたりをきちんと理解していますね。

悪しき習慣を変えていかなければ葬祭業界のイメージは向上しない

坂本 一般葬から家族葬、家族葬から直葬という流れは加速しています。この流れに対応するため、19年に直葬専門の(一社)日本直葬協会を設立しました。設立の背景には、葬儀費用の高騰や価格決定の不透明さといった業界の悪しき慣習があります。それを業界外から来た者が打破しないと、業界はよくならないと思っています。

白石 業界外出身の坂本社長から葬祭業界をみて、いちばん驚いた点、改善ができそうな点は何ですか。

坂本 いちばんは、役所手続きに関してアナログな部分が非常に多いことです。たとえば、電話予約しか受け付けてくれない、キャッシュレス決済が浸透する世の中でいまだに現金のみ受け付ける火葬場などです。業界内では供花・供物の注文もいまだにFAXでしかできないとか、現金決済しかできないとか。白石社長のところの「スマート葬儀」はそこを改善していますよね。

白石 オンラインの訃報案内からEC機能で供花・供物・弔電・香典が手配でき、クレジットカード決済もできます。提携会社様に対応してもらえればシステム上で発注が一元管理できます。

坂本 発注ごとにアプリや方法が違ってはミスが起こりますから、一元管理できるのはありがたい話ですね。

白石 登録情報を一元管理することを目的としたシステムなので、その部分はだいぶ完成に近づいたかと思っています。火葬場の予約システムも山形県米沢市の公営火葬場に提供させていただいています。今後全国の火葬場に広がれば、やりとりがよりスムーズになるでしょう。

最後になりますが、葬祭業界の皆様へ向けてのメッセージをお願いします。

坂本 これは言っていいのかどうかわからないのですが、「お客様に向けて仕事をしていますか?」と問いたくなることがあります。利益を追求するあまり、お客様のほうを向いていない葬儀社様がやはりいるんですよね。

働く人たちに対しても長時間労働を強いたり、低賃金だったり、というようなことをよく聞きます。葬儀社様も働いている人たちも含めて、地位向上ということを考えていかなければならない時期に、いまだに旧態依然とした形での働き方であるとか、高額な請求であるとかがまかり通っているのには、忸怩たる思いがあります。

そうした悪しき慣習を、業界として変えていかなければいけない。これを苦言として呈したいと思います。

僕は葬儀というものはインフラだと思っています。葬祭業界がないと社会が成り立たないほどの重要な産業です。それに携わるものとして「葬儀で働いているのはカッコイイ」と思われてほしいですし、そうした意識改革というものを、やはり業界全体で考えていかないといけないのだということを感じています。

白石 おっしゃるとおりだと思います。本日はありがとうございました。

坂本 ありがとうございました。

◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。