「スマート葬儀」を導入しお客様・社員・地域の三方よし

【葬儀DX対談】宮地正治 (株)日本典礼 代表取締役会長×白石和也LDT (株)代表取締役

※この記事は月刊フューネラルビジネス2024年3月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。

今回はLDT・白石社長が、東京・足立区を本拠に1都3県で葬祭事業を展開し、「スマート葬儀」の導入先でもある専門葬儀社(株)日本典礼の創業者で代表取締役会長の宮地正治氏と対談。同社の歩みやビジョン、「スマート葬儀」導入などについて伺った。

49歳で異業種参入地域とのつながりで事業が軌道に

白石 はじめに、宮地会長の経歴や創業の経緯などをお伺いできますか。

宮地 私は鹿児島県奄美大島の出身で、高校卒業後の1959年に上京しました。中国貿易専門商社を経て大手商社に転職、ビジネスやその考え方を学ばせてもらい、紆余曲折を経て29歳で起業するまでになりました。

葬祭業界に飛び込むきっかけとなったのは、39歳のときに息子を交通事故で亡くしたことです。それから約10年息子の死に悩み、苦しみましたが、師と仰ぐ曹洞宗の住職の言葉を受けて「50歳になる前に人に喜ばれる仕事をしたい」と思い、88年、49歳のときに日本典礼を創業しました。

白石 49歳でいままでとはまったく異なる業界へ参入するということは、かなりチャレンジングなことだと思います。当初から事業は順調だったのでしょうか。

宮地 恥ずかしながら、想いは大きく志は高かったものの、葬祭業の業務経験がまったくなかったため苦戦しました。経験者を雇用したのですが、その人の言う「業界の常識」のとおりにしているうちに手元資金がみるみる減っていく。ようやく軌道に乗ったのはしばらく経ってからです。

白石 事業が軌道に乗る、何かターニングポイント的なことはあったのですか。

宮地 葬祭会館を買ったはいいが仕事がなく、業績がどんどん下がっていた頃、とある町会長さんから「日本典礼の宮地に葬儀は任せるように……」という遺言でした、と依頼の電話をいただき、はじめて地元で大きな葬儀をとり行なうことができました。

この葬儀施行によって地域の方々とつながりができ、そのつながりで信用金庫から融資を得られ、それでいまがあります。私たちの「地域の方やお客様に喜ばれる仕事」という考え方や社会貢献を重視する姿勢のルーツになった出来事です。

あとは、どの時期からというわけではありませんが、葬儀屋さんにありがちな、ことが起こってからでないと仕事がこない「待ちの営業姿勢」から、さまざまな関連業者と積極的に提携するなど「攻めの姿勢」に転じたことも、いまの安定経営につながっていると思います。

「当たり前」の基準を高めることがビジネスでは何より大切

白石 「地域の方やお客様に喜ばれる仕事」ということですが、御社の社員さんを見ていると、そうした宮地会長の想いや志が本当に浸透していると感じます。社員教育などはどのようにされているのでしょうか。

宮地 まず入社前の段階でともに食事をする機会を、それも複数回設けます。その機会に、日本典礼や私の考えや想いを伝え、その方の考えを聞きます。

ですから、そうした想いや志をもった社員しかいない、ということが前提なのです。そのうえで、定期的に勉強会を実施するくらいでしょうか。

白石 御社では社として在庫管理・棚卸しなどを他社では見られないくらいしっかりとなされていますね。

宮地 それは当たり前のことでしょう。納品台帳と在庫管理表の担当がそれぞれ別で、2つの帳票を合わせているだけですよ。

白石 在庫管理を商社と同じ粒度で実施されている葬儀社さんは少ないのではないかと思います。御社は「当たり前」の基準が高いといいますか、そのあたりは宮地会長の商社での経験が活かされているのではありませんか。

宮地 私は、業務を指導する者がその業務をしっかり理解していることが大事だと思っています。そのうえで、継続してもらうために業務をシンプルな作業に落とし込むような仕組みづくりを会社として行なっているだけです。

たとえば「在庫管理をしろ」と社員に命じても、そのときはできても継続してやっていくことはむずかしい。継続するには、「数量をこの紙のここに書くだけ」という状態にまでより細かく落とし込むことが必要です。「当たり前」の基準を高めることが、ビジネスでは何より大切だというのが私の考えです。

白石 なるほど。一方で、分業制ではなく担当者制を採用したり、お棺の無償グレードアップをしたりと御社はあえてある意味非効率なこともなさっているように見受けられますが、それについてお考えを聞かせてください。

宮地 葬儀でいちばん大切なのは、利益追求ではなく、ご遺族に寄り添う心をもつことだと私は思っています。

分業制は効率的かもしれませんが、少なからずご遺族が不安に思われる可能性がありますし、社員が「働きがい」「喜び」を感じやすいという点でも担当者制のほうが優れています。

お棺の無償グレードアップについても、これは故人様が向こう岸に着いて、先に旅立たれたご先祖様にお会いするとき、少しでも立派なお棺でお会いできるほうが喜ばれるだろうという想いからさせてもらっています。

感覚ではなく数値で経営指標がつかめる「スマート葬儀」

白石 創業以来、そうした想い・志でやってこられたのだとあらためて頭が下がります。そのような会社にスマート葬儀を導入いただいていることはたいへんありがたいのですが、導入の理由を教えていただけますか。

宮地 導入を決めた理由は3つあります。

まず、誰が検索をしても過去に葬儀施行した顧客のデータや、施行内容などを詳しく出せること。弊社は歴史がないのですが、リピーターが多い。

たとえば、電話で葬儀を受けるとき、すぐに「3年前の8月に喪主を務められた〇〇様が亡くなられたのですね。お悔やみ申し上げます」と、誰が電話に出てもそのように対応できれば、お客様は安心するでしょう。

2つ目は、使用料が毎月一定の金額だということです。顧客数や社員数がふえたり、インボイス対応などで別途増額されると懸念しておりましたが、それはなく、一定の金額で利用できることに安心しました。

そして3つ目、これがいちばん気に入った点なのですが、スマートフォンでいつでも簡単に経営指標のデータを見ることができる分析機能(今後、オプションになる予定)があることです。担当者が請求書を作成するだけで、こちらは売上げが確認できる。スマート葬儀では、感覚ではなく数値でわかりやすく業績が把握できるのは素晴らしいです。先々の予測がしやすくなり、重宝しています。

白石 ありがとうございます。スマート葬儀の分析機能は現在リニューアル中でして、近々さらに使いやすくなったものをお届けできるかと思います。

さて、年齢のことを申し上げると失礼なのですが、宮地会長は現在、84歳にしてなおそのように先進的なシステムを取り入れようとし、データ分析に興味をおもちという姿勢は素晴らしいですね。私が知る限り、葬祭業界の第一線に立つ経営者としては最高齢かと思いますが、今後のビジョンや私たち後進へのメッセージなどがあればお願いします。

宮地 私は49歳で創業したので、業歴では先輩が多くいます。そのなかで恐縮ですが、やはり思いやりの心をもって感謝をしてもらえる施行をすることがいちばん大切だと思います。

日本典礼は東京の足立区にある葬儀社ですが、事業をするうえでは日本一を目指しています。そういえる状況が整ってきました。私は150歳まで生きるつもりですので、いまやっと折り返し地点に立ったところです。

白石 「老いとは考えることをやめたときからはじまる」という言葉を思い出しました。

こうして宮地会長とお話しさせていただき、私も年齢を言い訳にしないようにしようと強く思いました。今日は貴重なお話をありがとうございました。

宮地 ありがとうございました。

参考URL:

(株)日本典礼

https://www.nihontenrei.jp/

◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。