スマート葬儀で高効率オペレーション参入6年で年間売上げ約11倍に
【葬儀DX対談】本田 敦 (株)TENSOU 代表取締役×白石和也LDT (株)代表取締役
※この記事は月刊フューネラルビジネス2024年7月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。
今回は、LDT・白石社長が、北九州市小倉南区において「天想メモリアル」の屋号で葬祭事業を展開する(株)TENSOU・本田社長と対談。同社の概要・現況や「スマート葬儀」の導入経緯とこれからの展望などについて伺った。
存続のために新展開を模索する寺院への企画提案が葬祭業参入のきっかけ
白石 デザイン会社を経営しながら葬祭事業も手がけられていますが、業界に参入した経緯をお聞かせください
本田 28年前、海外ブランドの流通に携わる事業が、私が立ち上げた最初の事業でした。
当時、海外メーカーが世界戦略としてブランドの価値を高めていく能力に長けていた一方で、国内メーカーは量産過多で、ブランド価値を低下させている状況でした。
そこで、国内でも企業価値を高めていくブランディングができる事業を展開したいとの思いからデザイン会社を立ち上げたのです。
葬祭業界への参入は想定外でした。十数年前、デザイン会社でさまざまなクライアントのプロモーション展開に関わってきた流れで、あるお寺さんから相談を受けたのです。
当時の寺院は保守的な考え方が主流でしたが、そのお寺さんは生き残っていくために新たな展開が必要だという問題意識をもっておられました。定期的に会議へ参加するうち、よいも悪いもいまのお寺業は弔いごとが収益の中心ということがわかってきました。
そこで私たちは、「今後、家族葬が主流になるので、家族葬専門の葬儀社を手がけていくべきだ」と企画書を提出しました。
しかし、現実問題としてお寺さんが葬祭事業を展開するにはハードルが高く、何度も企画をブラッシュアップしていくうちに、葬祭業界の問題点や改革できる部分がつぎつぎに見えてきて、気が付けば自社で立ち上げてしまっていたというのがはじまりです。
「天想メモリアル」を立ち上げたのが2017年。設立と同時に小倉南区にあるビル1階に「小倉斎場」を開設しました。資金力がないため、内装は自分たちで手がけました。
その後、21年に若松区に高須会館を開設して2会館となり、現在は私を含めて3人体制で年間400件弱の葬儀を施行しています。
白石 なるほど、面白い参入経緯ですね。しかし、3人で400件弱の施行というのは驚きです。
本田 私以外のスタッフは、正社員は女性社員1人と男性社員1人。1人当たり月15件以上は安全に回せるオペレーションを組み上げてきました。
ただ、それを実行するとかなりハードなため、年間120日以上の休日をとることを前提にした体制づくりを目指しています。忙しくてもしっかり休みをとり、相応の収入も得られる、というところを目標としていまして、これはオペレーションを整備すれば十分可能です。
白石 素晴らしいですね。デザイン会社は北九州と東京の2拠点で運営していると伺いました。葬祭事業のほうも東京進出を考えておられるのですか。
本田 デザイン会社は拠点がどこにあっても仕事になりますし、東京のほうがスタッフに質の高い仕事を与えられるという事情があるため2拠点にしています。一方、葬儀の場合は地域特性が強いので、北九州での展開モデルをそのまま東京で行なうのはむずかしいと思います。
シェア10%を目指し異業種・ユーザー目線を追求
白石 御社には「スマート葬儀」を導入いただいておりますが、導入された経緯をお聞かせください。
本田 異業種から参入して、「情報管理や共有が葬祭業の弱点の1つ」ということに気づきました。FAXでの受発注や紙ベースでの顧客管理が普通ですから、「管理システムをつくればビジネスになる」と、LDTさんに相談する前に自社で開発チームをつくるところまで進めていました。どのような既存システムがあるのかを徹底的に調査して、最終的にスマート葬儀に辿り着きました。
内容を拝見すると、求めている機能がほぼ網羅されていて、それならいまさら自社でやるよりも利用させてもらったほうがいいと導入を決めました。本格運用はこれからですが、私たちが目標とする「どれだけ少ない人数で、どれだけスマートに葬儀をこなすか」ということには情報の管理・共有が不可欠ですからスマート葬儀への期待は大きいですね。
白石 ありがとうございます。最近は異業種から参入された事業者さんがフラットな視点やサービス業としての意識を活かして業績を伸ばしている例がいくつも思い当たります。御社が北九州市という激戦区で急成長している理由も、そのあたりにあるのではないかと思います。
本田 「急成長している」と言われると面映ゆいのですが、確かに異業種からの新規参入だからできる・やりやすいという面はあるように思います。
私は現場主義で、「葬儀未経験で何も知らない、だから現場の何もかもをやってやろう」と立ち上げてから5年間はほぼ1人で現場を回してきました。徹底してやったうえで見えてくる課題があります。たとえば「これは葬儀では当たり前になっているけれど、本当に必要なサービスかな?」とか。そういった部分を1つひとつクリアにしていくだけで、結果としてお客様のメリットにつながるのです。
「私たちはサービス業に従事している」とユーザー目線だけで考えることを徹底してきました。おそらく、伸びている理由はそこにありますね。正確な数値化はこれからですが、事前相談での来客者の成約率は9割を超えていて、親族を含めたリピーター率も非常に高い。2回目・3回目は当たり前で、今年5回目というお客様もいらっしゃいました。
別事業で広告デザイン制作もしていながら、戦略的な広告はこの6年間一度も打っていません。宣伝はほぼ紹介とクチコミだけ。それでもお客様とのよい関係性を築けています。会社設立時の年間売上げが千数百万円程度、7年目の決算では約11倍になりました。社員も1人ふえただけですから、「どれだけ少ない人数で、どれだけスマートに葬儀をこなすか」という進化は続いています。
ただそれは手を抜くのではなく、絶対に手を抜けないところ、いらないところが明確になってきたという感じです。
白石 さすがですね。やはり伸びている会社さんは、サービス業としてフラットにオペレーションを見直している。伸び悩んでいる会社だと、見積書のフォーマット1つとっても、代々受け継いできたものが正解と思い込みデジタル化が進まないという話もよく聞きます。
本田 葬祭業界に限らずあらゆる業界でいえると思いますが、長く続いてきた習慣については、必要なものとそうでないものの区別がつきにくいということがあるのではないでしょうか。その区別をしっかりしてデジタル化へと向かう。
それこそLDTさんのシステムに対応できない会社さんは、これから厳しいのではないかと思います。
白石 今後の展望ですが、やはりドミナント戦略やM&Aといった手法をとられるのでしょうか。
本田 北九州市は葬祭事業者が多くむずかしい部分がありますが、結果としてドミナント的な展開になると考えています。少人数のスタッフで多くの会館を回せるというドミナント戦略のメリットも出てきますから。そのメリットを活かすための情報共有・管理の仕組みとしてスマート葬儀は大きな力になるでしょう。
M&Aに関しては、地元で厳しい状況にある葬祭事業者の話も聞きますし、新規出店に比べ葬祭会館を買収して出店するほうが労力はかかりません。ですから、事業展開の視野には入れており、今後は情報収集を強化していきます。北九州市は高齢化率が高く、死亡者数も日本全体が2040年にピークを迎える前にピークアウトしてしまいます。
事業者も多いため、ここ数年でさらなる激戦区になると考えられます。その北九州市で、私たちはシェア10%を目指しています。現状2会館で5%程度ですから、10%はそれほど会館をふやさなくても実現できるはずです。その先、30%を目指すのか、違う展開を目指すのか……いずれにせよ、生き残るためにはデータをしっかり把握し、流れを見極めることが必須です。
その意味で、スマート葬儀による可視化とデータ分析機能には大いに期待しています。
白石 本日はありがとうございました。
本田 ありがとうございました。
参考URL:
(株)TENSOU
◆この記事の監修者プロフィール
LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。