将来に向けて「スマート葬儀」を再導入|デジタル強靭化で品質・CS向上に寄与

【葬儀DX対談】高柳 稔(株)やなぎ代表取締役×白石和也LDT (株)代表取締役

※この記事は月刊フューネラルビジネス2024年8月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。

今回は、LDT・白石社長が三重県松阪市を本拠とする専門葬儀社(株)やなぎの代表取締役・高柳稔氏と対談。高柳社長の娘夫妻で同社の未来を担う取締役 社長室長・企画部部長(兼グループ会社の(株)TK’s代表取締役)の高柳大也氏と取締役の高柳有氏も加わり、システムの導入状況や事業承継の動きなどについて伺った。

地域密着で発展デジタル化も積極的に取組み

白石 創業から現在までの経緯をお聞きかせください。

高柳(稔) 弊社は1999年、私と妻である専務の2人で創業した葬儀社です。創業前はブライダル事業をしており、結婚式でよくご一緒した牧師さんから「キリスト教式の葬儀を手伝って」と言われたのがきっかけでした。

創業後は自宅や寺院、火葬場併設式場などで施行し、商号を変更したのが2008年です。10年に1号会館「やなぎ会館てんけい斎場」をオープンし、その後は2、3年に1か所ペースで3会館を開業。21年、「やなぎ会館明和ファミリー斎場」を他社から譲受してリニューアル、23年には尾鷲市の(株)TK’s(屋号:セレモニーホールせぎやま)をM&Aで取得。この6月には「ファミリースイート松阪中央別邸かがり」をオープンしました。

娘の有と婿の大也が、勤めていた(株)アーバンフューネスコーポレーション(現(株)むすびす、本社東京都江東区)さんを退職してこちらに入社したのが19年。いまでは2人とも取締役として、大也にはTK’sの社長も務めてもらっています。

白石 貴社には「スマート葬儀」を導入いただいておりますが、弊社のシステムに限らず、デジタル化にかなり積極的な印象があります。

高柳(稔) スマート葬儀はオンライン葬儀をはじめる際に一度導入しましたが、その後他社のシステムに切り替え、顧客管理も他社のシステムを使っていました。今回、料金面や機能の融通性を比べ、スマート葬儀のほうが弊社に合っていて使いやすいとあらためて導入を決めました。

クラウド型CTIシステムと連携できるのも魅力で、品質や顧客満足度向上につなげたいと考えています。デジタル化でいえば、LINEワークスを用いたコミュニケーションツールや経理システムなどを導入しましたが、さらに会館・スタッフともにふえたので、クラウドの勤怠管理システムを検討中です。アナログとデジタル管理を上手に使い分けながら、これからも積極的に取り組んでいこうと思っています。

白石 今後はできるだけデジタル化していかないと、業務が回らなくなると私は思っています。2040年には現在の4分の3程度のスタッフ数で1.2倍の葬儀を回すことになりますから、デジタル化・自動化できるところはして、人がやらなければならないところで他社と差別化しないと生き残れないでしょう。

M&Aで商圏拡大事業承継も円滑に

白石 地域に根差して発展されてきた御社が、昨年はじめてのM&AでTK’sを取得されました。

高柳(稔) 弊社の基本方針はエリア拡大よりも地域シェアを高めていくというものです。ですから、取得対象も近いほうがよく、TK’sのある尾鷲市は本社から車で約1時間の距離にあり、ちょうどよかったのです。尾鷲市の人口は2万人を切りますが、そこで6割程度のシェアをとれれば、リスクはかなり抑えられると考えました。

また、売却理由が後継者不在で、経営不振ではなかったことも大きいですね。弊社の葬儀に対する捉え方や社員教育を導入できれば、さらにいい会社になると予感し、M&Aを決断しました。

白石 葬儀に対する捉え方の親和性、そして財務面からみても理想的なM&Aといえるのではないでしょうか。今後は多店舗展開、ドミナント戦略を進めていくのですか。

高柳(稔) 弊社は松阪エリアでのシェアが20%に届いていません。これを40%に引き上げ、ナンバーワンシェアにすることが目標です。人口16万人の松阪市内に3会館ありますから、シェア40%は十分達成可能な目標です。

そのうえで多店舗展開やドミナントは必要であれば進めます。件数を取るより、地域で展開する他社とともに地域における葬儀の価値を向上させ、葬儀単価を上げたいという思いがあり、時代に合った会館に変える、もしくは時代に合った会館を出店することが重要だと思っています。

白石 シェアが3~4割になれば、いい葬儀を広げていきながら、その地域の文化をつくっていくことができますね。さて、本日は有さんと大也さんにも参加いただいています。もともと有さんご自身は跡を継ぐという想いはあったのでしょうか。

 両親から「継いでほしい」という言葉を聞いたことはないですね。私が小学生のときに起業して、一生懸命働いている印象はずっとあり、学生時代は初盆の忙しい時期などアルバイト感覚で手伝っていましたから「たいへんな仕事」と思う反面、「いい仕事」とも感じていました。だからといって、自分から「葬儀社で働く」と言ったことはなく、大学も理工学部数学科を専攻しました。

大学時代、友人の結婚式2次会の幹事を頻繁にやる機会があり、ウエディングプランナーと打合せをするなかで、「人生の節目となるイベントで、その節目を迎える他人のために一生懸命になれる仕事っていいな」とプランナー職に憧れたのが最初のきっかけでした。就職活動ではウエディング業界と葬祭業界に絞り、この会社に行きたいと思ったのが、むすびすだったのです。

実際に働くなかで、「両親が元気なうちに一緒に働けたらいいな」と思うようになりました。もともと将来は地元に帰りたいと思っており、それらの想いに結婚も重なって、というタイミングで戻ってきたという感じです。

高柳(稔) 私も人と人とのつながりを生むイベントが好きで、それを葬祭業界に求めたのが創業のルーツ。好きでやっていた仕事なので、それがビジネスとして成立し、跡を継いでくれたのは正直夢のようです。

白石 順調な事業承継ですが、その要因は何でしょう。

高柳(稔) 社員みんなが家族のような関係性を築いており、大也も有もそのなかに入ってきたという感覚があり、努力して溶け込もうとしてくれていることですかね。2人とも親が社長・専務ということにかかわらずしっかりと仕事をし、それをまわりが認めてくれています。

白石 社長がお2人に期待されていることは何ですか。

高柳(稔) やはり、やなぎ葬祭の社風をしっかりと受け継いでもらいたい、それが第一です。お葬式は何のためにするのかというと、遺された家族が幸せになるためだと私は考えています。幸せというのは、結局は人と人とのつながりです。葬儀を通じてお客様とのご縁が生まれる、ということを大事にしながら社員や地域の方へ貢献していく。その誇りをもって働いてほしいと思います。

白石 最後になりますが、今後の御社の展望をお三方からお聞かせください。

大也 私はやなぎ葬祭では企画部の部長であり、TK’sでは代表取締役でもあります。理想は尾鷲市でもやなぎと同じお葬式をすることですね。これはTK’sのやり方を否定するものではなく、いままで尾鷲で培われてきたものに、やなぎのいいところをプラスしていこうと。それができるように邁進しているところです。

いずれはやなぎとTK’sのスタッフが行き来し、同じクオリティのお葬式ができる、それがいちばんの理想です。

 社長が話していた人と人とのつながりには、私たちとお客様はもちろん、社内の人的つながりという意味もあると思います。いま、社内の関係性は非常にいいので、そこをさらに深めていきたいと考えています。

前職でずっと現場にいましたから、葬祭業界がいかに人のためになる仕事か、やりがいを感じられる仕事か、よくわかっています。それを社員全員が感じ取れる職場環境にしていきたい。将来的には、「あまり働きたくない業界」と思われてきた葬祭業界を「あこがれの仕事」に変える。これを目標に歩んでいきたいと思います。

高柳(稔) 正直、経営していくうえでは利益を上げていかなければなりません。やはり葬儀単価を上げ、シェアを高め、ドミナント展開も視野に入れ、2年後の展望として売上げ10億円が目標です。そのためにも、ご縁がつながる、後悔のないお葬式をお客様に提供しながら、それをどうやってこの地域に広めるのか、もう一度原点に帰って考え、しっかりと地盤を固めていきたいと思います。

白石 本日はありがとうございました。

参考URL:

(株)やなぎ葬祭

https://www.yanagi.website/

◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。