時間の価値を高めるために「スマート葬儀」を導入

【葬儀DX対談】蒲田辰雄(株)坂出葬儀社専務取締役×白石和也LDT (株)代表取締役

※この記事は月刊フューネラルビジネス2024年9月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。

今回は、LDT・白石社長が、香川県坂出市を本拠とする(株)坂出葬儀社(社長河﨑和義氏)・専務取締役の蒲田辰雄氏と対談。同社の沿革や葬儀アフターとしての終活事業、デジタル化の考え方、今後の展望などについて伺った。

別会社「和音」を立ち上げ
葬儀施行とアフターサポートを分業

白石 はじめに、御社の沿革をお伺いできますか。

蒲田 弊社のルーツは、1972年に坂出市で開業したかわさき生花店です。

86年に㈲坂出葬儀社として葬祭業に本格参入し、97年に市内初の葬祭会館「坂出葬祭会館 本館」を、2005年にはその隣接地に新館をオープンしました。

10年には宇多津町に葬儀法要会館「なごみ」を開業し、18年には本館を「家族葬ホール なごみ」としてリニューアルしました。

21年に宇多津の「なごみ」を閉鎖し、拠点を坂出市に一本化しました。会館は減りましたが、22年に新館1階をリニューアルして開設した遺体安置に特化したエンディングホテル「ゆずりは」のおかげで失注がなくなり、現在は年間240件程度の葬儀を施行しています。

白石 蒲田専務は関連会社である(株)和音(わのん)の代表取締役でもありますね。

蒲田 和音は、ライフエンディング活動の手助けを行なう総合窓口として19年2月に立ち上げた会社です。

私は約15年葬儀施行を担当してきて、最初の頃は葬儀社の役割は、葬儀という儀式を滞りなく施行するお手伝いと捉えていましたが、時代とともにお客様ニーズが変わってきました。「葬儀後はどうしたらいいの」といった相談がふえ、アフターの需要が高まってきたのです。

アフターの相談には、各担当で分担して、時間を決めて対応せざるを得ません。しかし、施行担当をしながら相談にも応じるというのはむずかしく、専門知識も足りない。

それならば、葬儀施行とアフターサポートを分業したほうがいいだろうと会社を分けたのがはじまりです。

また、業界では当たり前になっている「寺院、葬儀社、アフター業者」といった縦の関係性を変えたいと考えました。「みんな横一線で、輪になってお互いやっていきたいね」と話していたら、「それいいね」と共感してくださった僧侶がいて、「和音」と名づけていただきました。

実際にゆっくり時間をとってお客様の話を伺うと、「お墓を片づけたい」「仏壇はいらないですよね」といった葬儀社にとってはある種マイナスの要望がよく聞かれました。

葬儀社のアフター売上げとして伸びていくかは疑問に感じていた部分もありましたが、お客様の悩みごとに正面から相対したことでさまざまな課題が見つかり、いまはその課題をアフターではなくビフォアである事前相談でも対応しています。

葬儀の儀礼、守るべきところは坂出葬儀社、その前後を和音でという形ですね。

白石 なるほど、葬儀の事前相談も和音で対応されているのですね。具体的にはどのような活動なのでしょう。

蒲田 たとえば、坂出市でスタートした終活サポート事業に協力しています。

実はこの事業は、弊社社長が香川県葬祭業協同組合の理事長を務めている関係で、昨年末に神奈川・奈良など先進的に取り組んでいる他県の終活に関する資料をまとめて、「香川県でもやりませんか?」と県にはたらきかけたことがきっかけではじまった事業です。

結果的に県の事業にはなりませんでしたが、坂出市が県内初の終活サポート窓口を設け、市内の葬祭業や士業の方々をリスト化しています。

弊社はその窓口の登録事業者として行政と協力し、積極的にPRを行なっています。

白石 地域に根づいた理想の葬儀社の形を先取りしていますね。

さて、弊社のポータルサイト「やさしいお葬式」では海洋散骨の問合せや不動産の相談がふえていますが御社ではいかがですか。

蒲田 そうですね、やはり相続案件では空き家、不動産案件というのはふえています。

海洋散骨の件数はふえているというほどではないのですが、興味をもたれているお客様はふえてきていると感じます。

白石 海洋散骨は以前からあった潜在的ニーズが少しずつ顕在化していますね。

あと不動産では、相続登記の義務化と空き家の税率上昇を背景に空き家物件がふえています。空き家をうまく収益化できる仕組みを葬儀社さんがつくることができれば有望だと思います。

施行件数に対して、不動産・相続案件の受注率は何%ですか。

蒲田 相続関連の案件は全体の30%程度、不動産案件は5%程度です。

これらの案件は和音を通じてお客様にお知らせし、関心をもたれた方には、士業を束ねている会社が専門的に相談に乗る流れになっています。

「何のためにデジタル化するのか」
スタッフに明らかにすることが重要

白石 葬儀社のM&Aが活発になっているから言うわけではありませんが、これからは「企業価値の向上」が1つのキーワードになると考えています。

御社は10年20年先にどのようなポジションを目指しておられるのでしょう。

蒲田 弊社の場合は、地域に根ざして長くお客様に選んでいただけるような会社に、というところに企業価値をおいています。

ですから地域から離れるのではなく、葬儀社を軸としながらまったくの異業種への展開もできると思うので、そちらを選択していこうと考えています。

白石 御社はスキマバイト募集のアプリを導入するなど異業種の仕組み、他社のリソースをうまく活用して「協働」で成長していく仕組みを構築してこられました。

その背景や今後の活用についてお聞かせください。

蒲田 葬儀社にいながら他社や異業種に目を向けるのはなかなかむずかしいと思います。

私自身は取引先の方などと話していて「私たちの当たり前が世の中の当たり前ではない」「葬儀社は世間とは違った色をもっているな」ということに気づかされました。

ですから私にとっての「協働」は、「異業種の人たちの色と、葬儀社の色を掛け合わせたらどのような色になるのだろう?」というイメージですね。

たとえば、PRプランナーから広報と広告の違いを教わったり、デザイナーとの打合せで「デザインにも1つひとつ意味がある」と実感したりしています。

現在、スキマバイト募集については、サービス提供元の担当者に県の葬祭組合に来てもらい、「葬儀バイトを経験した方に優先的にお声がけができるような仕組みができないか」という相談をしています。

また、これは異業種の話ではないですが、弊社主導で賛同してくれる県内の葬儀社を集め、搬送事業者に香川県への進出を促したことで、夜間の搬送業務の外注化をこの5月からスタートさせました。これも「協働」の一例でしょう。

白石 そうした考えをもたれ、旗振り役となって協働を実現しておられる。

御社のような事業者がいる地域は、どんどんよい地域になっていくと思います。

さて、御社にはスマート葬儀の導入も進めていただいています。業務のデジタル化に対する考え方を伺いたいのですが。

蒲田 いまやデジタル化は必ずやらないといけないことです。

そのうえで、「何のためにデジタル化するのか」をしっかりとスタッフに伝えるべきだと思います。
デジタル化により、時間効率を高め、空いた時間をお客様に接する時間に使う。このことを伝えていかないと、結局「便利になった」「楽になった」で終わってしまう。

お客様に寄り添うための時間の効率化が目的だ、とはっきりさせるのが重要ではないでしょうか。

白石 おっしゃるとおりだと思います。

今後は就労人口が少なくなっていくことが人口統計上確定しており、人がやらなくてもいいところはシステムで自動化することが必須です。

葬儀社さんは、お客様に寄り添うといった、人にしかできないことで付加価値を出し他社と差別化をしていくことになると考えています。その部分で正しい戦略をとられていると、あらためて認識させていただきました。

最後に、今後の展望をお伺いできますか。

蒲田 物事を考えるとき、やはり時間軸で考えることが重要だと思っています。

お客様は、十分に高められた時間価値にお金を払っているからです。

22年にオープンしたエンディングホテル「ゆずりは」は、時間価値を高める1つの試みです。遺体安置という、故人様の姿が存在する限定的な時間を調整できるのは葬儀社だけです。

できるだけきれいなお姿でご遺族とともに過ごしていただくことで限られた時間にどれだけ価値を付加していけるか、という考え方です。この考え方の延長で、エンバーミングにも興味をもっています。

白石 なるほど。今後の御社の展開が楽しみです。本日はありがとうございました。

参考URL:

(株)坂出葬儀社

https://sakaide-sougi.co.jp/

◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。