DX推進で人材・商材確保し飛躍する企業像描く


【葬儀DX対談】川野 晃裕 大の葬祭グループ 代表×川野 将裕 (株)大の葬祭 代表取締役社長×白石 和也LDT (株)代表取締役

※この記事は月刊フューネラルビジネス2024年10月号の掲載内容を元に加筆修正した内容になります。

今回は、LDT・白石社長が大分県豊後大野市を本拠に県内で葬祭事業を展開する大の葬祭グループ・川野晃裕代表と(株)大の葬祭・川野将裕社長との鼎談。
葬祭事業への想いやDXへの取組み、今後の展開などについて伺った。

葬祭業の本質は遺族の困りごとの解決

白石 御社の創業からのお話をお聞かせください。

川野晃裕(以下、晃裕) 当社の創業は1971年4月、今期で53期となります。祖父が創業前から大野郡(現豊後大野市)でお寺さんの檀家総代として葬儀のお手伝いをしていました。それを個人事業としてはじめたのがルーツです。父の代のときに県南初の葬祭会館をオープンし、会員制度をつくるなど体制を整えていきました。

私が入社したのは24歳のとき、大学卒業後に名古屋で保険会社に勤めた後に大分に戻り、それから3年間下働きをして27歳のときに社長に就任しました。当時は豊後大野市と臼杵市に2会館のみでしたが、現在は10か所目をつくるところまで拡大しています。

私は4人兄弟の長男なのですが、つぎつぎと弟たちが戻ってきてサポートしてくれました。今回参加している将裕は10歳下の四男で、入社当初は本部長として従業員の満足度や働きやすさの向上に尽力し、その後私のように20代のうちに社長を経験すべきと一昨年に交代したところです。

さて、私が24歳で入社したとき、葬祭業界というものに違和感がありました。ある葬儀では、お父様を亡くされた娘さんが、通夜振舞いで近所の方にお酒を注いで回り、近所のご婦人たちは入れ替わり立ち替わり台所に入りバタバタしている。結局きちんとお別れができない。それを目にして「誰のためのお葬式だったのだろう」と思ったのです。

その頃から、葬祭業界を若い目線で変えていきたいと強く思いました。その過程で定めた私どものミッションが「より良いお別れ より良いご供養」です。ご遺族がどんな場面においてもしっかりお別れができるようなシーンを提供したい、ご供養ができるシーンを提供したいという想いでやってきました。

コロナ禍においても、遠方にいて地元に戻ってこられないという方々に対してリモートでの葬儀参列や動画配信サービスを提供したり、供養においても、お墓参りに行けないという方々に対して、新たな供養のあり方として人工衛星とGPSを駆使した「空供養 そらメモリアル」を開発したりしています。

伝統や宗教儀礼も大切ですが、やはり目の前のご遺族が何を望んでいるか。それを解決していくのが葬祭業というビジネスの本質だと強く思います。

白石 非常に共感するところがあります。
私自身20代前半に父と祖父の葬儀を約1年の間に経験し、その際に葬祭業界の不思議なところを強く感じたことがライフエンディング領域で起業したきっかけでした。

御社の従業員数や施行件数・売上げの伸びはどのような状況でしょうか。

晃裕 15年前は従業員7人で2会館体制、年間施行250件程度。売上げは2億円程度に落ち込み、赤字の状況でした。

川野将裕(以下、将裕) 現在、葬祭事業は従業員約60人、提携先を含めると100人規模になります。年間施行件数は1,000件超となっています。売上げは葬祭事業で10億円を超え、関連事業を含めると17億円程度です。

白石 どのような関連事業を展開されていますか。

晃裕 まず、ホールディングス会社が行なう会館と広告の管理事業があります。それから、グループ傘下にはファイナンシャルプランナーの会社やアフターの相続手続き関連を担当する士業会社があるほか、遺品整理や不動産の仲介・転売事業も展開しています。

さらに、宇宙ベンチャー事業にも着手しています。これは海洋散骨や樹木葬に続く自然葬として宇宙葬に着目してはじめました。先ほど述べた「空供養 そらメモリアル」はこの事業の1つで、遺影写真のデータを人工衛星に載せ、GPS管理で上空に近づいたらご遺族のスマートフォンにアラートを発信、ご遺族が空に向けてお参りできるというものです。

白石 御社はアフター事業に先進的に取り組んでいる印象があります。

遺品整理や相続手続き、不動産売却などは葬儀件数に対してどれくらいの受注がありますか。

晃裕 アフター事業は、今年度から本格的に開始しました。目標としては、「葬儀件数に対し遺品整理を10%受注」「そのうち数%の相続不動産案件を受注」と掲げています。実際、遺品整理の反響は大きく、スタート数か月で予想を上回る受注を得ています。

不動産に関しては、地方だと転売先がないなどのリスクがあるため仲介に徹していますが、大分市内では、仲介のみならず積極的な買取再販を推進し、グループで常務を務める三男の働きにより、施行全体の1%程度の受注を確保しています。

企業理念を実現する人材を集めるため デジタル化は必須

白石 ご兄弟4人で役割を定めて事業展開しておられますが、担当する事業領域と責任範囲の棲み分けはどうされていますか。

晃裕 現在、私がHDの代表、次男が副代表、三男がグループ常務、そして将裕が大の葬祭の代表と4人で分担していますが、問題はないですね。会社が苦しい時期から一緒の想いでやってきた、それが大きいと思います。私は自分で葬祭業を継ぐと決めて帰ってきた、でも弟たちは私が苦しんでいるのを見て助けようと帰ってきてくれたのです。両親が帰ってこいと言ったわけではありません。

両親は共働きで帰宅は遅く、長男である私が晩ご飯をつくることがよくありました。お腹を空かせているときに食べさせてくれたという信頼関係があるわけです。忙しくしていた両親ですが、私たち兄弟はその背中を見て「かっこいい」と感じていました。地域に大きく貢献している仕事ですから。「地域を大切にしているこの会社を潰してはいかん」と兄弟で同じ想いをもち続けています。

父が20代の私に社長を譲ったというのも大きいですね。「結婚と同じように、本人が社長をやると決めたときが適齢期だ」というのが父の持論でした。若いうちから社長をやれば、やる気も強いし、より長い期間社長として経験が積める、というわけです。私が将裕社長と交代しようと決意できたのも、父の背中を見ているからです。

白石 なるほど。ご両親の背中を見て「かっこいいな」と思っていたことが大きいのですね。

御社は新規事業の展開だけではなく、デジタル化・業務効率化にも積極的ですね。弊社ではコールセンター機能の一部を受託させていただいています。積極的にDX化に取り組む意図や背景を教えていただけますか。

晃裕 私から言えるのは、お別れできない方にどうお別れしていただけるようにするか、供養できない人にどう供養していただけるようにするか、それは伝統とITをミックスさせることで実現できるのだと思います。

将裕 根本的には企業理念の「想いを大切にする」があり、会社は仕事を通してその理念を体現していく場であると考えます。そして、理念を実際に形にしていく場では「商材」と「人材」が重要です。この人材という点で、デジタル化・業務効率化によるDXは必須でしょう。

現状、葬祭業界は学生の新卒採用において不人気上位の業界で人が集まらない。AIやロボットに任せられるところは任せて、人がしなければならない部分に注力して採用・教育・評価をしていくことで、優秀な人材が集まり、長期的に働ける環境を競合他社に対して優先的に確立していくことができる、というのが私の考えです。

白石 なるほど。最後に、今後の展望等ございましたらお伺いできますか。

晃裕 県内で圧倒的に満足度の高い葬儀社を目指すという領域は、将裕社長にお願いするとして、グループとしては優秀な人に出資して起業してもらう学生ベンチャーのような仕組みを構築したいと考えています。そのため、いまは行政や大学などと連携して地方を活性化していく仕組みを勉強しているところです。

本業の葬祭業では、海外展開も考えています。たとえ宗教や葬送文化が異なったとしても、共通する必要な商材やサービスがあるはずで、そこでわれわれが提供できるモノ・コトがあるのではないかという考え方です。もちろん、すぐに芽が出ることではないかもしれません。

でも10年後、葬儀自体がどうなっているかわからないですし、本業を潰さないという意味で、事業の柱をたくさんつくっていかなければいけないと考えています。

白石 これからの御社・グループの展開が楽しみですね。本日はありがとうございました。

参考URL:https://www.oono-sousai.co.jp/

(株)大の葬祭

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◆この記事の監修者プロフィール

LDT株式会社 代表取締役CEO
白石 和也
2014年リベラルマーケティング(株)を創業し、終活関連サービスのオンライン集客で日本最大級のサイトを運営。2020年東証プライム上場の(株)Link-Uに売却。
2016年ドローンパイロット派遣会社を立ち上げ、大手インフラ企業のDXソリューションの開発などに従事、2018年同社をNASDAQ市場へ上場したエアモビリティ開発会社のグループへ売却。
2019年9月当社を創業。