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「入れただけDX」はなぜ失敗するのか——最近よく聞くFDE(伴走型エンジニア)とは?

公開日時:2026/6/12

  • 葬祭業コラム

  • DX

想定読者:葬儀社経営者・幹部・将来のM&Aを視野に入れている経営層


はじめに:システム導入のハードルは下がった。では、なぜDXは根付かないのか

2008年頃からのクラウド型システムの普及により、システム導入のコストは劇的に低下しました。かつては大企業しか手が届かなかったシステム投資が、中小企業にとっても現実的な選択肢になりました。

さらにサブスクリプション型(利用する権利取得型)の普及により、AI機能の追加など時代に合わせた最先端のシステムが月数万円で利用できるようになっています。葬儀業にとっても、葬儀管理システム、コールセンターシステム、遺影写真システム——こうしたツールが、以前と比べてはるかに低いコストで手に入る時代になりました。

この変化は葬儀社経営者にとって朗報です。しかし同時に、重要な問いを投げかけます。

「ツールが安く手に入るようになったのに、なぜDXは現場に根付かないのか?」

葬儀社の経営者からは、こんな声が後を絶ちません。

顧客履歴と請求書履歴が別々の管理のままで、結局それぞれのシステムを行き来している
タブレット見積りを入れたが、紙の見積書も並行運用していて二重入力が発生している
データ入力をしたものの、誰も見ず形骸化してほとんど使われていない
比較的高齢の従業員が多く、導入したものの使いこなせない
受電後の情報が施行担当者にリアルタイムで共有されないので、結局担当者間で電話した方が早い

これらはすべて、「ツールを買ったが、定着しなかった」という同じ問題の表れです。

ツールが手頃になった分、こうした「入れただけDX」の失敗事例はむしろ増えています。問題はツールの価格ではなく、導入後に何が起きているか——そこにあります。

この問いへの答えとして昨今トレンドになっている、FDE(Forward Deployed Engineer:フォワード・デプロイド・エンジニア) というアプローチが注目されています。


FDE(伴走型エンジニア)とは何か

FDEとは、顧客の業務現場に常駐し、AIやソフトウェアプラットフォームを活用して、課題の特定からシステム実装・運用定着までを一気通貫で担うエンジニアリング手法です。

もともとは米国Palantir Technologiesが体系化した職種で、「顧客チームと本体プロダクトチームの間を行き来するソフトウェアエンジニア」と定義されています。ベンチャーキャピタルa16zが「テックで最もホットな職種」と評したこの職種は、2025年1〜9月にかけて求人掲載数が800%増と急拡大。OpenAI、Anthropic、Google Cloud、Salesforceなど世界的なIT企業が大量採用しています。
日本国内でも、LayerXがAI・LLM事業部でFDE組織を立ち上げ、東証プライム上場のSHIFTが「アドバンスドFDE」サービスを開始するなど、急速に広がっています。


SaaS時代とAI時代:「業務をシステムに合わせる」から「システムを業務に合わせる」へ

AIの登場により、SaaSが隆盛を誇ったIT企業の市場でもパラダイムシフトが起こりました。「SaaSの死(SaaS is Dead)」なんて言葉も最近はささやかれます。

SaaS隆盛期(2008年頃〜2022年頃):Fit to Standard の時代

SaaSが普及した時代のセオリーは「業務をシステムに合わせる(Fit to Standard)」でした。Salesforceの"※the model"に代表されるように、世界のベストプラクティスを凝縮した汎用パッケージを導入し、自社の業務フローをシステムの仕様に寄せることで効率化を実現するアプローチです。

個別カスタマイズはコスト増・属人化の元凶として忌避され、「現場の業務がシステムの都合に縛られる」ことは半ば当然でした。現場スタッフは、やりやすいやり方を我慢して汎用システムに業務を寄せることを求められ続けました。

AI時代(2023年〜現在):Fit & Gapへの揺り戻し

生成AIの登場はこの前提を根本から覆しました。LLM(大規模言語モデル)の活用により、ソフトウェア開発のハードルが劇的に下がり、業務の文脈を読み取りながらシステムが現場に適応できるようになったのです。

結果として、「業務をシステムに合わせる」障壁が緩和し、「現場の業務に合わせてシステムを構築・進化させる」ことのコストが大幅に低下しました。だからこそ、顧客現場に入り込んで個別開発・個別伴走を担うFDEが最も合理的な選択となっています。


葬祭業界はFDEが最も有効に機能する業界のひとつ

葬祭業界は、FDEモデルの有効性が際立つ3つの特性を持っています。

① 業務がドメイン特化している 訃報、搬送、火葬予約、互助会、宗派ごとの式次第、地域慣習——葬祭業務は外部からは見えにくい固有のロジックで動いており、汎用エンジニアでは設計できません。

② 暗黙知の塊である マニュアルが整備されていない、属人化している、ベテランの勘で動いているプロセスが多く、これらを形式知化してAIに落とし込む作業が必須です。

③ エンジニア人材が圧倒的に不足している 葬祭業界の中にエンジニアを抱えられる事業者は極めて少数です。だからこそ、外部のFDE的サポートが現実解となります。


まとめ:「機能の豊富さ」より「伴走の手厚さ」を選ぶ時代へ

Ver3.0時代のシステム導入では、「機能の豊富さ」よりも「伴走の手厚さ(現場を理解した上のシステム開発)」を優先することを強くお勧めします。機能は同等のものが他社からも出てきますが、伴走品質は組織文化に根ざすため、簡単には模倣できないからです。

ツールを買うだけでは何も変わらない——これが、先進的な葬儀社が共有する教訓です。


本記事は、AgeRobotics株式会社著『2040年葬儀・ライフエンディング業界 Ver3.0 補強改訂版』(3-7章)をもとに編集しました。

※the model・・・マーケティングから営業、カスタマーサクセスに至るプロセスを4つの部門に分業・連携させ、顧客データを数値化して売上の最大化を図る営業フレームワーク。Salesforce社が提唱した。


この記事を書いた人

東村 翔太 (ひがしむら しょうた)
AgeRobotics株式会社経営企画部所属。
関西大学卒業後、セールスフォース・ジャパンの法人営業や、医療ITのエムスリー(株)にてBPR(業務改革)事業部等を経た後、在宅医療特化のSaaS(在宅医療向け電子カルテ)部門の事業責任者として売上と導入数を大幅に拡大。
専門はシステム導入における業務改革と、自己実現欲求をもとにした組織マネジメント。

自身の親族の病をきっかけに、医療現場におけるQoD(Quality of Death)およびQoL(Quality of Life)について深く考えるようになった経験を背景に、「人々の死を敬い、人の死が忘れ去られず、遺族の方の資産になるよう尽力したい:という思いを抱き、葬祭・終活領域でのテクノロジー実装に取り組んでいる。

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