公開日時:2026/8/5
葬祭業コラム
人材採用
葬儀件数は増えている。それを担う人材は、減っている。 この二つの現実が交差する場所に、葬祭業の人材危機があります。
葬儀社の経営者・採用担当者にとって、「人が採れない」「採ってもすぐ辞める」は、いまや最大の経営課題のひとつです。しかし、採用難だからといって妥協した採用を続ければ、コストも会社の評判も削られていきます。
本記事では、2025年版の最新データで葬祭業の人材不足の実像を押さえたうえで、「なぜ採用が難しいのか」という構造的要因、そして「妥協しない採用」を実現するための考え方と、9つの採用手法の選び方までを整理します。
まずは、いま業界で何が起きているのかを数字で確認します。
厚生労働省が公表する職業別有効求人倍率において、葬儀師・火葬係の値は 2024年末で7.59倍。これは全産業平均1.35倍の約5.6倍にあたります。医師・看護師・建設技術者・トラックドライバーといった「人手不足が社会問題化している職種」と比較しても、突出した数字です。
日本経済新聞(2025年6月24日付)の報道によれば、葬儀件数は 2024年に約50万2,921件 と、この20年で8割増加しました。需要側は確実に拡大しています。
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によれば、葬儀業界の平均年収は 約396万円(平均年齢43.1歳、月額給与約28.9万円、年間賞与約49.2万円)。全業種平均約460万円を、約64万円下回ります。
ただし、企業規模による差は大きいのが実情です。
従業員1,000人以上の大手:約410万円
従業員10〜99人の中小:約387万円
上場企業の大手葬儀社:平均年収が500万〜800万円台に達するケースも(燦ホールディングス、平安レイサービス、ティアの有価証券報告書より)
賃金水準そのものが、採用競争力を左右する要素になっていることがわかります。
団塊世代が全員75歳以上の後期高齢者となる 2025年問題 は、すでに現実のものとなりました。そして死亡数のピーク(約168万人)と就労人口の大幅減少が重なる 2040年問題 は、わずか16年後に迫っています。
葬儀件数増と人手減のクロスは、もはや「未来の課題」ではなく「現在の課題」です。

採用難の背景には、業界特有の構造的な要因があります。主なものを6つ挙げます。
① 過酷な労働条件 24時間体制、夜間出動、休日勤務。とくに「24時間・365日いつでも対応する」という基本姿勢が、ワークライフバランスを重視する若年層から敬遠される最大の要因になっています。
② 業界イメージ 「暗い」「汚い」「帰れない」というネガティブなイメージが固定化しており、就職活動の選択肢に入りにくい。実際の業務がそうでなくても、イメージが先行して応募段階で除外される傾向があります。
③ ご遺体に触れる業務への抵抗感 搬送、納棺、安置といった業務は、業界外の人にとって大きな心理的ハードルになります。
④ 葬祭ディレクター有資格者の絶対数の少なさ 1996年認定の葬祭ディレクター技能審査制度の累計合格者は約3万4,000人。全国の事業所数に対して有資格者は明らかに不足しています。資格学校(葬祭ディレクター科などを設置する専門学校)は、全国にわずか6校程度です。
⑤ 物流「2024年問題」の波及 労働時間規制によるドライバー不足が、遺体搬送車の運転手確保にも影響しています。若者の車離れで普通免許保有者自体が減少しており、搬送業務の継続性に黄信号が灯っています。
⑥ 定着率の低さ 採用してもすぐ辞める——この現象が、業界の構造的な離職率の高さとして表れています。マニュアルや研修制度を整えている葬儀社は、業界全体で見ればまだ少数派です。
葬儀というサービスの根幹を担うのは、人にほかなりません。式場の設備が整っていても、プランが充実していても、最も遺族の記憶に残るのは、担当者の言葉であり、所作であり、その場にいた人間の存在そのものです。葬儀において、人はサービスの一部ではなく、サービスの「顔」 なのです。
だからこそ、どんなに採用難と言われる時代でも、経営側が採用に妥協する必要はありません。「どうせ人は辞めるから、採用にこだわっても仕方ない」という思考に陥れば、企業の成長は望めません。
妥協して採用し、短期で離職された場合、採用コストだけでなく教育コストまでもがそのまま損失になります。さらに短期離職が繰り返されれば、求職者や既存社員からの信頼も低下します。つまり、妥協した採用はコストの無駄遣いにとどまらず、会社の評判そのものを削っていくリスクをはらんでいます。
一方で、闇雲に採用を続ければいいわけでもありません。採用を始める前に、次の3つを順番に問い直すことが重要です。
業務が増えているのか、それとも今いる人の使い方が整理されていないのか。採用の前に現在の業務フローを見直すだけで解決するケースも少なくありません。
採用とは人件費の増加です。「採る」と決める前に、まず「効率化で代替できないか」を一度確認してください。
新卒か中途か、経験者か未経験者かは、採りたい時期と育成体制によって変わります。即戦力が必要なら経験者の中途採用。文化から育てたいなら新卒や未経験者。ただし未経験者採用は「育てられる組織かどうか」が前提です。
なお、新卒採用を視野に入れるなら、内定までを逆算して約2年前からの動き出し が必要になります。
予算だけでなく、面接を担当できる人員、選考フローを設計する時間、入社後の研修体制。これらが整っていない状態で採用を始めると、せっかく入社した人を活かせないまま終わってしまいます。
採用手法には様々な種類があります。どれか一つが正解ではなく、自社の状況や採用目的に応じて組み合わせることが重要です。まずは一覧で全体像を掴みましょう。

以下、それぞれのポイントを補足します。
Indeedや求人ボックスといった一般媒体は母数が多く、幅広い候補者にリーチできます。葬儀特化の求人媒体は、業界に関心のある求職者に絞って訴求できるため、ミスマッチが起きにくい傾向があります。ただし無料掲載だけでは露出が限られ、応募数を確保するには有料オプションの活用が現実的です。掲載費用は先払いのケースが多く、費用をかけても採用が確定するとは限らないため、費用対効果を意識して活用しましょう。
幅広い業種・職種を扱う「総合型」と「業界特化型」の2種類があります。業界特化型は求職者が葬儀業界への転職を前提としているため、ミスマッチが起きにくいのが利点です。報酬体系は完全成果報酬型が多く、採用が決定した人材の初年度年収の約35%が紹介手数料の相場。採用担当の工数を大幅に削減できるため、人材にしっかり投資できる葬儀社にとって有効な選択肢です。
既存社員が友人・知人を紹介する手法です。紹介者が会社の文化や仕事内容を事前に伝えるため、入社後のギャップが少なく、早期離職が起きにくい傾向があります。採用コストも抑えやすく、紹介ボーナスなどのインセンティブを設ける企業も増えています。ただし、社員が「この会社を紹介したい」と思える環境であることが大前提。リファラルの活性度は、そのまま社内満足度のバロメーターとも言えます。
一度退職した元社員を再び採用する手法です。即戦力であることに加え、外の経験を持ち帰ってくれるという利点があります。退職時の関係性をどう保つかが鍵になります。
求人掲載は無料で行えます。ただし応募の量・質ともに安定しないことが多く、主力の採用手段として期待するには限界があります。「コストをかけずに間口だけ広げておく」という位置づけで登録しておくのが現実的な活用法です。
折り込みチラシや地域求人誌は、スマートフォンやネットに不慣れな層にも届くため、中高年・シニア層の採用を視野に入れる場合に有効です。費用は比較的抑えられ、配布エリアを絞ることで地元採用に集中できます。
ミスマッチを防ぎ、志望度を高めるという点で最も有効な手段の一つです。会社の雰囲気や働く人の声を伝えることで、応募前から「ここで働きたい」という気持ちを育てられます。ただし、ページを作るだけでは届きません。検索で見つけてもらうSEO対策と、コンテンツを更新し続ける運用担当者の確保が必要です。手間をかけられる体制があるなら、非常に有効な手法です。
葬儀業界は若手の採用が難しく、「暗い」「きつそう」といった先入観が壁になりがちです。SNSは、そのイメージを変える手段として有効です。InstagramやTikTokで社員の日常や現場の雰囲気をリアルに発信することで、「こんな職場なら働けそう」という気持ちを引き出せます。採用専用アカウントを運用する企業も増えており、フォロワーが積み上がると採用コストの削減にもつながります。ただし効果が出るまでに時間がかかるため、継続的な発信と運用担当者の確保が前提です。
葬祭系学科のある専門学校への直接訪問や求人票の掲出は、業界志望の新卒学生にアプローチできる手法です。前述のとおり、新卒採用には約2年前からの動き出しが必要になります。合同説明会や業界イベントは、他社と並んで自社を知ってもらえる機会であり、採用だけでなく業界全体への関心を高めるブランディングの側面も持っています。
葬祭業の人材不足は、有効求人倍率7.59倍という数字が示すとおり、すでに待ったなしの経営課題です。しかし、採用難を理由に妥協した採用を繰り返せば、コストと信頼の両方を失いかねません。
大切なのは、次の順序で採用に向き合うことです。
本当に人が必要か を問い直す(効率化で代替できないかを確認する)
誰を、いつまでに、どうやって 採るかを設計する
採用した人を活かし、長く働いてもらう仕組み をつくる
そして最初のステップ「本当に人が必要か」を考えるうえで、現場業務のDX・効率化 は避けて通れないテーマになりつつあります。限られた人員でより多くの葬儀に対応するために、いま何を人の手に残し、何を仕組みに任せるのか——採用戦略と業務改善は、両輪で考えることが求められています。
本記事のデータ出典:厚生労働省「職業別有効求人倍率」「令和6年賃金構造基本統計調査」、日本経済新聞(2025年6月24日付)、各社有価証券報告書。
この記事を書いた人

東村 翔太 (ひがしむら しょうた)
AgeRobotics株式会社経営企画部所属。
関西大学卒業後、セールスフォース・ジャパンの法人営業や、医療ITのエムスリー(株)にてBPR(業務改革)事業部等を経た後、在宅医療特化のSaaS(在宅医療向け電子カルテ)部門の事業責任者として売上と導入数を大幅に拡大。
専門はシステム導入における業務改革と、自己実現欲求をもとにした組織マネジメント。
自身の親族の病をきっかけに、医療現場におけるQoD(Quality of Death)およびQoL(Quality of Life)について深く考えるようになった経験を背景に、「人々の死を敬い、人の死が忘れ去られず、遺族の方の資産になるよう尽力したい:という思いを抱き、葬祭・終活領域でのテクノロジー実装に取り組んでいる。
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